為替市場を翻弄した、トランプ関税交渉と中東情勢…「金融政策×地政学」の二重リスクの先を読む【2025年6月の動向】

為替市場を翻弄した、トランプ関税交渉と中東情勢…「金融政策×地政学」の二重リスクの先を読む【2025年6月の動向】
(※写真はイメージです/PIXTA)

2025年6月、国際経済と地政学の緊張の高まりが為替市場に大きな影響を及ぼしました。トランプ米大統領の関税政策と、イスラエル・イラン間の「12日間戦争」は市場の不確実性を一段と高め、ドル円、ユーロ、新興国通貨の動向に顕著な変動をもたらしました。本稿では、過去1カ月の主要イベントを振り返り、為替市場への影響と今後の見通しを考察します。※SBI FXトレード株式会社の藤田行生氏が解説します。

「トランプ関税交渉×中東戦争」に揺れた2025年6月の為替市場

【トランプ関税交渉】不透明感の増大

 

トランプ政権は、貿易赤字削減を目指し、積極的な関税政策を展開しています。4月には日本に対し自動車や工業製品への関税強化を示唆したことから、日本側は赤沢経済再生担当大臣が6月30日までに7回ワシントンを訪問し、関税引き上げ回避を模索しましたが、交渉は難航しています。

 

トランプ大統領は5月12日、中国との関税を145%から30%に引き下げ、90日間の交渉猶予を設けました。一定の進展が見られたものの、6月4日には鉄鋼・アルミニウム関税を25%から50%に引き上げるなど、保護主義的な姿勢を一層強めています。

 

これにより、日本株や為替市場では不確実性が高まり、ドル円は堅調に推移しました。FRB(Federal Reserve Board:米連邦準備制度理事会)は利下げに慎重で、日銀も追加利上げが難しい状況が続いています。

 

【イスラエル・イラン「12日間戦争」】地政学的リスクの急上昇

 

中東では、6月13日にイスラエルがイランのウラン濃縮施設や軍事基地を攻撃し、「12日間戦争」が勃発しました。

 

6月21日、米国はイランの核施設3カ所に攻撃を行い、トランプ大統領はこれを「核プログラムの壊滅」と主張しましたが、一方で「数カ月遅延させただけ」と評価する情報機関もあります。

 

6月24日、トランプ大統領が突然の停戦合意を発表しました。表面上は交戦が収まったものの、イスラエル・イラン双方が越境攻撃や空爆を巡り非難の応酬を続けており、実質的には限定的な交戦状態が続いています。とくにイラン国内の強硬派や、イスラエル政権内の再報復論が影響力を持ちつつあり、停戦合意の持続性には依然として不透明感が残っています。

 

この紛争は原油価格の急騰(ブレント原油は一時14%上昇)と安全資産への資金流入を引き起こし、為替市場に大きな変動をもたらしました。

ドル円・ユーロ・新興国通貨の動向

【ドル円】有事のドル買いと円安進行

 

6月のドル円相場は、中東情勢の緊迫化に伴う「有事のドル買い」により円安が加速しました。

 

6月23日、ドル円は一時148円台に達し、原油価格高騰とトランプ関税の不透明感が円安を後押ししました。その後、停戦合意の報道を受けて市場は一時的に安定化し、円安圧力もやや緩和されました。また、トランプ大統領による次期FRB議長選任を急ぐ発言を受けFRBの独立性への懸念が高まったことからドルへの信認が低下し、ドル円は143円台まで下落する場面もありました。

 

しかし、関税問題や地政学リスクが複雑に絡み合うなかで中央銀行の対応は難しく、結果として日米金利差の縮小は想定ほどには進んでいません。このような状況下、ドル円は140円台中盤で堅調な地合いを維持しています。

 

【ユーロ】地政学リスクとECBの慎重な姿勢

 

ユーロは、中東情勢の悪化によるリスク回避の動きで一時下落圧力を受けました。欧州はエネルギー供給の多くを中東に依存しており、原油価格の急騰がインフレ懸念を高めたためです。

 

しかし、停戦合意やFRBの金融政策への懸念からドル売りが進み、ユーロドルは1.17台まで上昇しました。ECB(European Central Bank:欧州中央銀行)はインフレと成長のバランスを慎重に検討しており、ユーロは比較的堅調に推移しています。

 

【新興国通貨】原油高と貿易リスクの影響

 

新興国通貨は、原油価格の急騰とトランプ関税による貿易リスクの増大で下落圧力を受けました。とくに中東情勢の影響を受けやすい新興国(例:インド、トルコ)では、通貨安が顕著でした。

 

ただし、インドは米国との関税交渉で一定の進展を見せ、ルピー下落は限定的でした。

ドル円150円台の可能性とリスク要因

【ドル円】円安基調の継続?

 

ドル円相場は、2025年7月以降も円安基調が続くと予想されます。トランプ関税交渉の進展次第では、米国の保護主義強化がドル高円安を加速させる可能性が高いと考えられるからです。

 

市場ではドル円が150円台に到達するとの予想もありますが、個人的には円安による輸入コスト上昇が日銀の利上げ観測を強めるため、150円超の定着は難しいと考えています。地政学的リスクについては、リスク再燃はドル買いを強めると想定されますが、停戦が持続すれば円安圧力は緩和するでしょう。

 

7月9日の相互関税猶予期間終了は注目点で、交渉の進展がなければ猶予期間の再延長が行われるとの見方が強まります。ただし、トランプ大統領が相手である以上、予断は禁物です。

 

また、7月のFOMC(Federal Open Market Committee:米連邦公開市場委員会)や次期FRB議長選任問題もドル円の変動要因となり注意が必要です。とくにパウエルFRB議長への過度な圧力は、中央銀行の独立性への懸念が高まるために「ドル離れ」を引き起こすリスクがあります。

 

【ユーロ】不確実性の中での安定性

 

ユーロは、中東情勢の安定化とECB・FRBの金融政策に左右されるでしょう。原油価格が落ち着けばインフレ圧力が和らぎ、ユーロは堅調に推移すると想定されます。

 

しかし、トランプ関税交渉が不調に終わり、EU(European Union:欧州連合)への追加関税が発動されれば、欧州経済への影響が顕在化し、ユーロの下落リスクが高まります。ECBの慎重な金融政策がユーロを支える一方、FRBの動向にも引き続き注視する必要があります。

 

【新興国通貨】リスクの継続

 

新興国通貨は、原油価格や地政学的リスクの動向に敏感に反応します。停戦が持続し、原油価格が安定すれば通貨安圧力は緩和されるでしょう。

 

一方で、トランプ関税による貿易摩擦が続けば、新興国経済への影響が続き、通貨安リスクが残ります。

投資家は「地政学×金融政策」の二重リスクに備え、機動的かつ柔軟な戦略の構築を

2025年6月の為替市場は、トランプ関税交渉とイスラエル・イラン間の「12日間戦争」による不確実性の高まりに翻弄されました。

 

ドル円は有事のドル買いと関税交渉の不透明感で円安が進み、ユーロは地政学リスクと金融政策のバランスで変動しました。

 

今後も、関税交渉の進展、中東情勢の安定化、各国中央銀行の政策が市場の方向性を決定づけます。投資家は、地政学的リスクや金融政策の不確実性に備え、機動的かつ柔軟な戦略を構築していく姿勢が求められます。

 

 

藤田 行生
SBI FXトレード株式会社
代表取締役社長

 

※ 本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

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