(※写真はイメージです/PIXTA)

富裕層にとってのリスクは、市場の変動や事業の失敗だけではありません。実は、相続や離婚といった「家族内のイベント」が、築き上げた資産とビジネスを根底から揺るがす落とし穴となります。遺産分割をきっかけにした「お家騒動」や、離婚による巨額の財産流出…本稿では、こうした事態を防ぐためのポイントを解説します。

富裕層ファミリーにおけるリスクとガバナンスの重要性

富裕層は、その資産規模や社会的立場から、多くの関係者と関わりを持ちます。不動産オーナーであれば、多数のテナント、管理会社、取引先との関係があり、投資家であれば、投資先企業への影響力に加え、金融機関との資金調達の関係性も生じます。

 

さらに、ファミリービジネスを営む場合には、株主、従業員、取引先、投資家との関係が加わり、地域の基幹産業を担っていれば、地域コミュニティにまで影響が及びます。とはいえ、富裕層にとって最も身近で重要な関係者は、他の誰よりも「家族(ファミリー)」であることが通常です。

 

家族は、富裕層の日常生活を物質的・精神的に支えるだけでなく、ファミリービジネスをより繁栄させる原動力にもなり得ます。しかし一方で、家族間の関係が一度崩れると、その影響は個人やファミリーの財産のみならず、ビジネスの財産や評判にも重大な悪影響を及ぼすおそれがあります。

「相続」「離婚」…富裕層ファミリーに潜む“お家騒動”の火種

たとえば、ファミリービジネスの創業者である父親が相続対策をせず60代後半で飛行機事故により急逝したケースを想定してみましょう。相続対策をすることなく死亡した場合、遺言がなければ、個人の遺産は、法定相続人全員の遺産分割協議により分配されることになりますが、遺産分割協議をきっかけに家族の関係性に亀裂が入る可能性は否定できません。

 

ファミリービジネスを営んでいれば、当然、創業者は会社の持分を資産として保有しています。その持分の分配方法次第では、株主構成が大きく変化し、これまでの経営体制が維持できなくなる可能性もあるでしょう。創業者の死がビジネスに与える影響は計り知れません。

 

また、富裕層夫婦が離婚した場合には、財産分与によってファミリー資産の一部がファミリー外へ流出することになります。財産規模が大きければ大きいほど、その影響は甚大です。

 

さらに、相続や離婚といった明確なイベントがなくても、ファミリーメンバー間で十分な意思疎通が取れていなかったり、共通の価値観が醸成されていない場合、些細なきっかけで一族内に紛争が生じることがあります。ファミリービジネスを持つ一族であれば、それが株主間の対立に発展し、最悪の場合、裁判沙汰となりメディアに「お家騒動」として報道される事態もあり得ます。

 

弁護士として見た富裕層ファミリーの明暗

私は、これまで約20年にわたり、「プライベート・ウェルス(Private Wealth)」すなわち個人の財産保全や相続対策の分野において、弁護士として多くのファミリーと関わってきました。

 

そのなかで、ファミリーに共通する価値観を醸成し、資産について一定のルールを決めて、メンバー内でコミュニケーションを密にとりながら、あらゆる専門家を使いこなしつつ、ファミリーの繁栄そしてファミリービジネスの成長を築いてこられた素晴らしいファミリーにも多く出会うことができました。

 

一方で、一代で莫大な財産および巨大なファミリービジネス、そして大勢のメンバーから構成されるファミリーを築きながら、ファミリーにとって大切な共通の価値観も確認することができず、常にファミリーのメンバー間で争い、法的なトラブルに巻き込まれたあげく、成長したファミリービジネスを手放さなくてはならなくなったファミリーも少なからずいらっしゃいました。

 

この違いは、ファミリーとしてのリスクを予防する取り組みをしてこなかったことに尽きると考えています。

ファミリーガバナンスとはなにか?

ファミリーガバナンスには厳密な定義はありませんが、個人的には、ファミリーのリスクを予防する仕組みがファミリーガバナンスだと考えています。

 

富裕層ファミリーのリスクとは、主に以下が考えられます。

 

●富裕層の死亡・病気・判断能力喪失

●富裕層の離婚により、財産分与により資産が流出

●ファミリービジネスの株式分散

●後継者不足、後継者の能力不足

●相続リスク(遺留分侵害、納税資金確保)

●ビジネス上または富裕層・後継者を含むファミリーメンバーの不祥事リスク[不倫、刑事・民事裁判リスク])

●ファミリーメンバー間の紛争(お家騒動)

コーポレートガバナンスとの違いと共通点

コーポレートガバナンスとは比較的耳慣れた用語です。コーポレートガバナンスにも統一的な定義はありませんが、東京証券取引所が2018年に公表したコーポレートガバナンス・コードの冒頭では、「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」とコーポレートガバナンスを定義しています。

 

コーポレートガバナンスは、株主に向けた説明責任であるスチュワードシップ・コードと共に、金融庁・東京証券取引所が中心となって改革を続けてきた成果もあり特に上場企業においては着実に定着しつつあるように思います。

 

このコーポレートガバナンスと並んで、ファミリーガバナンスは、ファミリーの関係が良好に継続し繁栄していくための、ファミリーの統治に関する仕組みだと考えています。ファミリーがファミリービジネスを営んでいるとすると、コーポレートガバナンスに加えて、ファミリー内という領域にとどまらず、ファミリービジネスが持続的に繁栄していくことを意識したファミリーガバナンスを構築する必要が生じるものと考えられます。

ファミリーオフィスが支えるファミリーガバナンス

日本ではファミリーオフィスを、富裕層の資産管理会社のように定義づけているような文献も見られますが、欧米で発達してきたファミリーオフィスとは、ファミリーの資産管理面だけではなく、ファミリーガバナンスを支え運営する有機的な組織だと考えられています。

 

恥ずかしながら、私自身も「ファミリーオフィス」とはファミリーの資産管理会社のことかと想像していたところ、欧州系のファミリーのシングルファミリーオフィスの複数から依頼を受けるようになり、これらのファミリーオフィスが、資産管理だけではなく、数百人に膨らんだ創業者ファミリーメンバー間の株主間契約や配当政策に積極的に関与し、海外居住のメンバーに助言を与える専門家のアレンジも行っている状況を目の当たりにしてカルチャーショックを受けたことを記憶しています。

 

日本で、この形式のファミリーオフィスのビジネスは発展途上にあるように思いますが、単なる資産管理を超えて、ファミリーを支えるために有機的に機能するファミリーオフィスの存在は、ファミリーガバナンスには有益だと考えます。

 

 

酒井 ひとみ
シティユーワ法律事務所

 

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