(※写真はイメージです/PIXTA)

景気の現場感は依然として厳しいものの、先行きにはわずかながら明るさも見え始めています。内閣府が発表した最新の景気ウォッチャー調査では、個人消費の落ち込みが全体の景況感を押し下げる一方、企業や雇用の分野では改善傾向が見られました。現状と先行きのギャップが示すのは、日本経済が「不安」と「期待」のはざまで揺れているという事実。その複雑な現状と未来への小さな希望を探ります。

5ヵ月ぶりに改善した「景気の現状」

内閣府が2025年6月9日に公表した5月の『景気ウォッチャー調査』によると、街角の景況感を示す現状判断DI(季節調整値)は44.4となり、前月の42.6から1.8ポイント上昇しました。 これは5ヵ月ぶりの改善ではあるものの、好不況の判断の分かれ目とされる50を下回っています。 この数字は、多くの生活者や現場のビジネスパーソンが景気の停滞感を依然として強く感じていることの証左といえるでしょう。

 

このDIの背景を紐解くと、分野ごとに景況感が大きく異なっていることがわかります。特に足を引っ張ったのは、私たちの生活に最も密接な「家計動向」です。

 

家計動向関連DIは44.1と、前月から2.5ポイントの大幅な上昇となりました。 内訳を見ると、内訳を見ると、飲食関連は悪化したものの、サービス関連、小売関連などではDIが改善しています。

 

一方で「企業動向関連DI」は44.2と、前月から1.0ポイント低下。さらに「雇用関連DI」も46.6と、前月から2.5ポイントの大幅な上昇を記録しました。

 

これらのデータから見えてくるのは、現在の景況感の悪化が、主に「家計」部門の厳しさによって引き起こされているという構造。企業部門や雇用環境には一定の底堅さが見られるものの、その好影響が物価高の逆風を乗り越え、家計の消費マインドを温めるまでには至っていない、というアンバランスな状況が浮き彫りになりました。

先行きには改善の兆し、その背景にある「賃上げへの期待感」

足元の景況感には厳しい現実が横たわる一方で、2~3ヵ月先の景気見通しを示す先行き判断DIは44.8と、前月から2.1ポイント上昇しました。 これは6ヵ月ぶりの改善であり、現状とは対照的に、将来に対する悲観的な見方がやや和らいでいることを示唆しています。

 

この改善の原動力となっているのは何でしょうか。その答えは、本格化する「賃上げ」への期待感にあると考えられます。

 

先行き判断DIの内訳を見ると、家計動向関連が44.4(前月比1.9ポイント増)、企業動向関連が45.6(同3.4ポイント増)、雇用関連が45.7(同0.9ポイント増)と、すべての主要分野でDIが上昇しています。 特に企業動向DIの上昇が目立ちます。

 

これは、多くの企業で決定した春闘での高い水準の賃上げが、夏のボーナスや月々の給与に本格的に反映され始めることへの期待の表れと解釈できます。従業員の所得が増えれば、それが消費に回り、自社の売上にも繋がるのではない――そんな前向きな連想が企業経営者の間で広がり始めている可能性があります。

「家計と企業」の温度差…日本経済は正念場をどう乗り越えるか

今回の調査結果を総括すると、日本経済は「物価高に苦しむ家計」と「賃上げに期待をかける企業」という、大きな体感温度差のなかにいるといえます。このギャップこそが、日本経済が直面している課題の核心といえるでしょう。

 

今後の景気の行方を占ううえで最大の焦点は、「賃上げ」が物価の上昇を上回るペースで実現し、家計がそれを実感できるかどうかにかかっています。名目上の賃金が増えても、それ以上に物価が上がれば、生活は楽にならず、財布の紐は固いままです。現状判断DIにおける家計動向の落ち込みは、まさにこの「実質賃金」の改善が実感できていない人々の不安感を表しています。

 

先行きへの期待感が単なる「期待」で終わらず、確かな景気回復の原動力となるためには、企業の収益改善の果実が、持続的な賃上げという形で広く従業員に行き渡ることが不可欠です。それが実現して初めて、家計は安心して消費を拡大でき、経済の好循環が生まれます。

 

日本経済は回復に向けて重要な分岐点にあります。賃上げという追い風が、物価高という逆風を打ち破ることができるのか。企業の期待が家計の安心につながるのか。その動向を今後も注意深く見守る必要があります。

 

内閣府『令和7年5月調査(令和7年6月9日公表):景気ウォッチャー調査』

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