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押し入れから見つかった一枚の保険証券
身内だけで葬儀を終え、恵さんは母親が長年住み慣れた賃貸アパートの遺品整理に取り掛かりました。家賃の支払い期限も迫っており、早急に部屋を明け渡さなければなりません。思い出の品々を段ボールに手際よく詰めていたそのとき、戸棚の引き出しから一枚の保険証券を見つけます。
恵さんはそれを見た瞬間、母の“1,300万円”の話が一気によみがえりました。
恵さんは、すぐに保険会社に連絡を取りました。しかし、担当者から告げられたのは、「誠に申し訳ございませんが、保険金の支払い対象外となります」という信じられない言葉だったのです。驚いて理由を尋ねる恵さんに、担当者は「お母様がご加入されていた逓減定期保険です。当該保険は、80歳のお誕生日の前日をもって保険期間が満了となる保障内容でした。お母様がお亡くなりになったのは81歳ですので、残念ながら保障の対象期間を過ぎてしまっております」と続けます。
恵さんが証券を改めて確認すると、確かに「満期80歳」と記されています。
母は、保障内容を正確に把握していなかったのかもしれません。あるいは、認知症の影響で誤解していた可能性もあります。
高齢者を取り巻く“契約”の課題
従前、高齢者の金融リテラシーに関する課題は指摘されています。金融広報中央委員会が実施した「金融リテラシー調査」では、70歳以上の約半数が保険商品の仕組みを十分に理解できていない、あるいは契約内容を正確に把握できていないという結果が出ています。
特に、満期や保障期間の認識に関する設問では、多くの高齢者が誤った理解をしている傾向が明らかになっています。恵さんの母親が保険に加入したのはまだ年を重ねる前でしたが、加入後の確認ができていなかったという点で、こうした課題に直面していたのかもしれません。
さらには近年、認知症と金銭管理の問題も大きな課題です。厚生労働省の調査によれば、認知症と診断された高齢者のうち約3割が、自身の資産や契約内容を正確に把握できていないという実態も明らかになっています。また、契約後に内容を忘れてしまう、あるいは誤って解釈してしまうケースも珍しくありません。
届かなかった母の想い
「私が死んだらこのお金で少しでも楽をしてほしい」と、娘である恵さんのために遺そうとした母の想い。しかしその想いは、制度の壁によって叶いませんでした。母が加入していた逓減定期保険の内容を、母自身がどれだけ理解していたのか……。いまとなっては確かめようもありません。
遺された財産は、わずかな預金と、1ヵ月分の未支給の年金だけでした。それらもお葬式の費用やアパートを整理するための費用、支払いが残っていた医療費などに充てると、ほとんど手元には残りませんでした。
