(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

●米国際貿易裁判所はトランプ政権に、相互関税などIEEPAに基づく関税措置の差し止めを命令。

●トランプ政権は即日控訴し、米連邦巡回区控訴裁判所は差し止めの判決を一時停止するとした。

●関税の枠組みが変わる可能性は低いと思われ引き続き米国と各国との関税交渉の行方が焦点。

 米国際貿易裁判所はトランプ政権に、相互関税などIEEPAに基づく関税措置の差し止めを命令

米国際貿易裁判所は5月28日、トランプ米政権が発動した一部の関税措置について差し止めを命じました。差し止めが命じられたのは、「IEEPA(国際緊急経済権限法)」を根拠にした措置であり、これには相互関税や、フェンタニルなど違法薬物の流入を理由としたカナダ・メキシコ・中国への追加関税が含まれます(図表1)。

 

出所:各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]トランプ関税の根拠法と主な関税内容 出所:各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

一方、「通商拡大法232条」に基づき発動された、鉄鋼・アルミニウム製品、自動車などに対する関税には影響が及びません。

 

米中小企業やカリフォルニア州など複数の州は4月に、IEEPAに基づく関税措置は違法であるとして訴えを起こしており、今回は原告の主張が支持される形となりました。また、国際貿易裁判所はトランプ米政権に対し、10日以内に恒久的な差し止めを反映した新たな行政命令を出すよう命じましたが、トランプ政権は二審にあたる米連邦巡回区控訴裁判所に即日控訴しました。

トランプ政権は即日控訴し、米連邦巡回区控訴裁判所は差し止めの判決を一時停止するとした

その後の動きをみると、トランプ政権の控訴を受け、連邦巡回区控訴裁判所は5月29日、国際貿易裁判所の判決を一時的に停止する判断を下しました。連邦巡回区控訴裁判所はまた、原告に対し、今回の一時停止に関する反論書面を6月5日までに提出するよう指示し、被告のトランプ政権に対しても、控訴を巡る主張をまとめた書面を6月9日までに提出するよう求めました。

 

連邦巡回区控訴裁判所は、今回の一時停止の判断について、具体的な意見や理由は示しておらず、また、一時停止の期間も明確にしていません。ただ、一時停止の期間については、原告と被告から提出される書面を踏まえて検討されることも考えられ、連邦巡回区控訴裁判所の判断次第では、国際貿易裁判所の差し止め命令が一時停止後に有効となり、IEEPAに基づく関税措置が撤回されることも想定されます。

関税の枠組みが変わる可能性は低いと思われ引き続き米国と各国との関税交渉の行方が焦点

しかしながら、トランプ政権は米連邦最高裁判所まで争う姿勢をみせており、弊社は少なくとも裁判の係争中は、IEEPAに基づく関税措置が撤回される可能性は低いと考えています。また、仮にトランプ政権が敗訴しても、ピーター・ナバロ大統領上級顧問が5月29日に発言した通り、トランプ政権は関税の根拠法をIEEPAから「通商法122条」など(図表2)に置き換えて、関税政策を継続する公算が大きいと思われます。

 

出所:各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]通商政策の主な根拠法 出所:各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

以上を踏まえ、弊社は現状発動されているトランプ関税について、基本的な枠組みが変わる可能性は低いとみており、市場でもおおむねこのような見方が主流になっている模様です。そのため、今後のトランプ関税を巡る司法の動きは注意しつつも、焦点はやはり米国と主要貿易相手国との関税交渉の行方にあると思われ、まずは5月30日に予定されている日米関税交渉の4回目となる閣僚協議が注目されます。

 

 

※当レポートの閲覧にあたっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米国際貿易裁判所のトランプ関税一部差し止め命令と今後の展望【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジスト】』)。

 

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

 

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