(※写真はイメージです/PIXTA)

IPO(新規の株式公開)を目指すスタートアップ企業に外部の会計専門家として税務を行う公認会計士、税理士の仕事があります。一般的に、スタートアップ企業とその他の中小企業の経営、財務の方針は概して異なるため注意が必要です。本記事では、経営が不安定になりやすいスタートアップ企業が、優秀な人材に働き続けてもらうのに有効なストックオプション〔会社の経営者・従業員などが、将来一定の価格で一定の期間内に自社株を買う権利(※)〕の導入について、石割由紀人氏の著者『公認会計士&税理士のための スタートアップ支援税務のススメ』(幻冬舎メディアコンサルティング)、より一部抜粋・再編集し詳しく解説します。(※)出典:デジタル大辞泉(小学館)

ストックオプションは優秀な人材を確保するための重要な武器に

スタートアップが成功するか否かは、経営者以外にどれだけ優れた人材を採用できるかにかかっています。経営者がいかに優れた人物だったとしても、1人でIPOに至るまで企業を育てることは不可能です。優秀な人材をそろえたチームを作ることが必要です。しかし、スタートアップの経営は不安定であり、給与も大企業のように支払うことはできません。それでも、新しい価値を作り上げることの面白さや社会課題を解決するミッションに共感して働いてくれる人はいますが、やはり、そういったやりがい要素だけでは、人を定着させておくことは難しいのが現実です。

 

そこで、ほぼすべてのスタートアップは、ストックオプションを採用の武器として役員や主要な従業員に付与します。ストックオプションとは、将来の一定期間内に、一定の価格で、その会社の株式(ストック)を買うことができる権利(オプション)です。日本語では「自社株購入権」といい、買える価格のことを(権利)行使価格といいます。

 

例えば、あるスタートアップで働く人が、行使価格1,000円のストックオプションを1,000株付与されたとします。その時点では、そのストックオプションはほぼ無価値です。しかし、将来その会社が上場して株価が10万円になったときに、その権利を行使すれば1,000円で1,000株を買うことができます。購入価格は1,000円×1,000株=100万円です。そして購入した株の資産価値は、10万円×1,000株=1億円になります。

 

実際には、ストックオプションの付与は発行済み株式数の何%という形で設定されます。経営者以外の創業メンバーや、資金調達後に参画したCxOの役員には、発行済み株式数の1~2%のストックオプションを付与することもあります。

 

メルカリは、上場直後の時価総額が8000億円を超えました。仮に1%のストックオプションを付与されていたとすると、80億円分の株式を取得できることになります。

 

メルカリは例外的な成功例ですが、1,000億円程度までの成長はさほど珍しくありません。ちなみに、2023年の東証グロース市場における上場時時価総額の平均値は151億円、中央値は76億円でした。

 

一方、上場できなかった場合、あるいは上場しても株価が行使価格を下回っている場合は、ストックオプションの価値はありません。ストックオプションは義務ではなく、権利なのでその権利を行使しなければよいだけで、付与された人が損失を被ることはありません。

 

このように、ストックオプションは、付与された人にとってデメリットがない一方で、IPOの実現、あるいはその後の株価上昇により、大きな経済的利益をもたらしてくれる可能性があるものです。企業の成長と自分の経済的利益が直結するため、企業価値増大に向けて働くモチベーションをアップさせます。

 

 

石割 由紀人
Gemstone税理士法人 公認会計士
税理士
資本政策コンサルタント

 

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※本連載は、石割由紀人氏の著書『公認会計士&税理士のための スタートアップ支援税務のススメ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

公認会計士&税理士のためのスタートアップ支援税務のススメ

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