中小企業にはびこる人事制度への偏見
「うちには人事部がないから」「中小企業だから」─―このような言い訳は、もはや通用しない時代になっています。
特に中小企業では、人事制度そのものを「大企業向けのもの」「コストがかかるだけの面倒な仕組み」ととらえ、必要性を軽視しているケースが目立ちます。
企業が優秀な人材を確保し、育成し、定着させるためには、従来の「経験や勘」に頼る人事施策では限界があります。それは、設計図を持たずに、基礎工事を省略して家を建てるようなものです。このような不安定な状態では、時間が経つにつれて組織全体にゆがみが生じ、最終的には、働き手がいなくなることによる崩壊につながるのです。
一方で、「人事制度を導入したものの、期待した成果が出ない」という声もよく聞かれます。高額なコンサルティング費用をかけて導入したにもかかわらず、思ったような効果が得られないばかりか、むしろ混乱を招いてしまうケースも少なくありません。
その大きな要因の一つは、制度導入の目的が曖昧なまま進められることにあります。「なぜこの制度を取り入れるのか」という問いへの答えがないまま、他社の仕組みをそのまままねすることが多いためです。
人事制度は、企業の持続的な成長と発展を支える不可欠な基盤ですが、その導入や運用においては、中小企業では誤解や偏った認識がしばしば見られます。
中小企業には人事制度は必要ないのか
中小企業では、「社員数が少ないから人事制度は必要ない」という考え方が根強く見られます。確かに、小規模な組織では経営者が社員一人ひとりと直接コミュニケーションをとることができるため、制度を必要としないように感じるかもしれません。
しかし、こうした状況は経営者の主観や感情が評価や処遇に影響を与えやすく、不公平感や不信感を生みやすい環境をつくり出します。この誤解が、制度導入を妨げる一因となっています。
「大企業の制度をそのまま使う」という落とし穴
中小企業の中には、成功している大企業の人事制度を模倣することで自社の課題を解決しようとするケースがあります。しかし、社員数が少なく、一人ひとりの役割が多岐にわたる中小企業においては、大企業向けに設計された複雑な制度をそのまま使っても、現場でうまく機能しないことがほとんどです。こうした不適切な導入は、逆に不満や混乱を招きかねません。
「制度を導入すればすべて解決する」という過信
人事制度の導入に対して過度な期待を寄せることもまた、失敗の原因となります。「制度をつくれば社員の問題が解決する」といった考え方は誤りです。実際には、制度の構築だけでなく、それをどのように運用するかが鍵となります。
人事制度は一般的に、構築2割、運用8割といわれています。したがって、運用の重要性を軽視することで制度が形骸化し、社員の不満やモチベーションの低下につながるケースが多く見受けられるのです。
「制度は一度つくれば大丈夫」という固定観念
人事制度は「一度つくればそれで大丈夫」という固定観念をもつ企業も少なくありません。事業環境や社員のニーズは絶えず変化していくにもかかわらず、制度の見直しや更新を怠ることで、現状にそぐわない仕組みが残り続ける状況が生まれます。
このような制度は、むしろ企業の柔軟性を奪い、社員を混乱させるだけで、企業の成長を妨げる要因となるのです。こうしたことが原因となり、本来の意図とは裏腹に、社員の不満を助長する結果に終わるケースが見受けられます。
人事制度に関する正しい理解を深めるとともに、企業の規模や特性に適した柔軟かつ具体的な対応策を講じることが必要になります
