生活習慣が認知症のその後を形作る
20年以上にわたり、認知症の方とそのご家族と関わってきたなかで、認知症の方の生活はそれまでの生活文化の継続とも感じます。
資産のある方は、元々好きな時にお金を使い、好きなことをする生活を送ってきた体験的記憶が無意識下にあることが多くあります。そのため認知症になると、その傾向に拍車がかかったり、買い物をしたこと自体を忘れて何度も同じものを購入したりするケースがよく見られます。
しかし、この行動はご本人にとって浪費したくてしているわけではなく、もともとの生活習慣がそうだったというだけのことです。日常的に高級な店で買い物をしていた方であれば、認知症になってもそこに行くのが普通であり、そうではない店に行くこと自体が自分の生活の延長上にないというだけだと考えられます。
一方、経済的にさほど豊かでない人は、そもそも「もったいないからお金を使ってはいけない」という意識があるため浪費するケースはほとんど見られません。日常的にスーパーを利用していた方は、認知症になっても高級店に行くことはなく、普段通りスーパーへ通います。むしろ、過度に倹約する傾向が見られ、それが心配されることもあります。
このように、基本的には、認知症の方の生活は、それまでの生活や価値観の延長といえます。認知症の方の資産を守るために支出を制限すると症状が悪化する可能性があります。自由に金銭を使ってきた方がその自由を奪われるとストレスを感じ、それが妄想の原因となることがあるからです。本人の中で何らかの理由付けが行われ、結果として妄想につながるケースも少なくありません。
誰かに疑いを持ち、かつその感情の記憶だけが残っていくので、よくあるケースとしては「意地悪をされている」とか、ひどい時には「毒を飲まされている」などの観念に陥る要因にもなります。あるいは、誰が制限を掛けたか分からない状態になっていることが多いため、たとえご家族がお金を管理していても、それ自体を覚えていないために「泥棒に入られた」と警察沙汰になるケースさえありました。
もし、息子さんが「管理します。息子の〇〇」と張り紙でもしようものなら、「息子が私の資産を全部盗んだ」「悪い女に騙されて、私のお金を使い込んだんだ」という話になりかねないわけです。
もちろん、制限の受け取り方は人それぞれ異なることは間違いないので、絶対にそうなるとは言い切れませんが、いわゆる物取られ妄想などはそういった制限がきっかけになることがあるのです。
