海外企業の「人事部」にあって、日本企業にはないもの
日本の人事には公平・平等な評価・処遇を与えようという目的意識はありましたが、人事によって生産性を高めようという考え方はありませんでした。そこが実は諸外国、特にほかの先進諸国と違うところです。
人事部の英訳を調べると、“Human Resources Department”という訳が出てきます。略すとHRです。このHRという言葉は、日本でもこの20年ぐらいでかなり普及したため、人事部をHRと表記したり呼称したりすることに違和感がない人は多いと思います。
しかし人事とHRは本来違うものです。「人事」は労務管理というべきもので、このなかには採用、勤怠管理、給与計算、昇進・昇格、福利厚生などが含まれます。一方「HR」は人材育成というべきものです。こちらには、研修やキャリアプラン、あるいはコーチングなどが含まれます。もちろん日本の人事部にもHRの機能はありますし、海外のHRにも人事の機能はあります。しかし日本の場合、重点は「人事」におかれてきました。したがって公平・平等を旨とする考え方が強く、人材を育成することで企業の生産性を高めるという考え方が弱かったといえます。
それが海外では、HRすなわち人材育成がメインであり、いかにして就労者の生産性を高めるかということに心を砕いてきました。この差が、何十年にもわたる日本の生産性低迷の大きな原因になっています。
ハイパフォーマーへの処遇が日本の生産性アップのポイント
例えば海外では、ハイパフォーマーには高給と地位が与えられることが一般的です。大学院を出たてのハイパフォーマーが、日本円にすると何千万円もの高給で迎えられることは珍しくありません。日本ではどんなに優秀でも新卒で数千万円という給料を出す会社はなかなかありません。それどころか、修士や博士卒が生涯賃金では不利という傾向さえありました。
海外でハイパフォーマーに対して好待遇を与えるのは、ハイパフォーマーに十分力を発揮してもらうことが生産性向上につながることを理解しているからです。パフォーマンスが常人の10倍の人がそのとおりのパフォーマンスを発揮してくれれば、その人一人で10人分の付加価値を生みだすわけです。
そのような人が何人もいれば、企業の生産性は自然と高まります。しかし日本式の公平・平等な人事制度では、ほかの人と同等ということはなくても、せいぜい1.5倍〜2倍程度しかパフォーマンスを発揮してもらえなくなります。同じ10倍のパフォーマンスの人が、海外では10倍の付加価値を生むのに、日本ではせいぜい2倍しか生んでくれません。当然ながら、海外との生産性格差は広がる一方です。
まずはハイパフォーマーに対して、それにふさわしい処遇をします。それだけで、日本の生産性はかなり高くなるはずです。
梅本 哲
株式会社医療産業研究所
代表取締役
