(※写真はイメージです/PIXTA)

アトピー性皮膚炎の患者数は年々増加傾向にあり、12年間で3.5倍になっています。石黒和守医師は自身の経験を生かしてアトピー性皮膚炎の研究をつづけています。本記事では石黒医師の著書『“前向き”アトピーライフ』(幻冬舎メディアコンサルティング)から一部抜粋・再編集し解説します。

アトピー性皮膚炎の患者数は年々増加

アトピー性皮膚炎の患者数は年々増加傾向にあります。厚生労働省の「患者調査」によると、患者数は2008年の35万人から2020年には125万人と12年間で3.5倍になっています。

 

アトピー性皮膚炎は、症状が長期化しやすく患者の年齢によって変化します。

 

一般に生後1カ月から2カ月頃の乳幼児の時期に発症しやすく、頭皮や耳、頬や口の周りなどに湿疹や炎症が表れます。

 

学童期になると乳幼児の時期に比べて皮膚は乾燥し、顔の皮疹は減り、子どもによっては首、わきの下、ひじの裏、ひざの裏などの体の関節部の内側の汗の溜まりやすい部位に皮疹が表れるようになります。

 

そして青年期になって症状が悪化すると、全身の皮膚が乾燥して厚くなり(苔癬化)、赤ら顔になって(赤鬼様顔貌)治すのが困難になります。皮膚が厚く硬くなるのは、皮膚の防御反応によるものです。

 

さらに年齢を重ねて皮膚の乾燥が進むと完全に鱗状へと変化することもあります。成長とともに症状が改善することもありますが、経過は人によって大きく異なり、ストレスや物理的な刺激、さまざまな環境要因などによって症状が悪化することがあります。

 

東京大学・近畿大学などの共同研究によると、全体の7割以上を軽症患者が占めており、1~2割は中等症、さらに数%の重症、最重症患者がいます。傾向とて、乳幼児期および40代降は軽症患者が多く、学童期から20代、30代にかけて中等症や重症、最重症の割合が増えるという結果があります。

 

つまり、治療を怠ると長期にわたり病気に苦しむことになるのです。

アレルギー性皮膚炎とアトピー性皮膚炎の違い

よくアトピー性皮膚炎をアレルギー症状の1種と混同する人がいますが、これらは似て非なるものです。

 

アレルギー性皮膚炎は、体内にアレルゲンなどの異物が侵入したとき、異物を取り除こうと防御する免疫反応によって炎症が起こります。確かに、アトピー性皮膚炎の患者でも、人体に無害な物質やごく微量の異物に対しても反応してしまい炎症が起こるケースがあります。

 

しかし、アトピー性皮膚炎の原因は、それだけではありません。皮膚は上層から角質層、表皮、真皮、皮下組織となっており、正常な皮膚は角質層がバリアとなって細菌やアレルギー物質の侵入を防いでいます。

 

しかし、皮膚バリア機能を構成する重要な因子である「フィラグリン」というタンパク質は、生まれつきの体質により数が少ない人がいます。そのような人は、別の皮膚疾患などで炎症が起こると皮膚バリア機能が低下してアトピー性皮膚炎になることが分かっています。また皮膚バリア機能は強くかきむしることでも低下します。

 

特定物質により引き起こされるアレルギー性皮膚炎と違い、アトピー性皮膚炎の要因は一つではないのです。

 

医療の現場でも過去には、乳幼児におけるアトピー性皮膚炎は食物によるアレルギーが原因ではないかと考えられていた時期がありました。その当時は、アレルギー検査をしたうえで、乳幼児に対して厳しい食事制限が課されていたのです。

 

次ページアトピー性皮膚炎の新たな仮説

※本連載は、石黒和守氏の著書『“前向き”アトピーライフ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・編集したものです。

“前向き”アトピーライフ

“前向き”アトピーライフ

石黒 和守

幻冬舎メディアコンサルティング

肌荒れや我慢できないかゆみなど、アトピー性皮膚炎は患者の心身に大きな負担を与える非常に厄介な疾患です。また完治が難しく、生涯にわたって慢性的な症状に悩まされ続ける患者も少なくありません。 皮膚科医であり、自身…

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