(※写真はイメージです/PIXTA)

アトピー性皮膚炎の患者数は年々増加傾向にあり、12年間で3.5倍になっています。石黒和守医師は自身の経験を生かしてアトピー性皮膚炎の研究をつづけています。本記事では石黒医師の著書『“前向き”アトピーライフ』(幻冬舎メディアコンサルティング)から一部抜粋・再編集し解説します。

「二重抗原曝露」という新たな仮説

しかし、2008年になって「二重抗原曝露」という仮説が発表され、皮膚から体内に入るとアレルギーになる(経皮感作)のに対して、逆に腸から吸収されるとアレルギーが抑えられる(経口免疫寛容)と分かってきました。

 

同じアレルギー物質であっても、皮膚から侵入した場合はアレルギー反応を起こすのに対して、食事と一緒に口から侵入した場合はアレルギー反応が起こりにくいことが分かったのです。

 

そのため、今では過度な食事制限はしない考え方が主流です。ある程度の制約はあるにしても、度がすぎる食事制限はむしろ成長を阻害する要因になるとされ、現在では推奨されていません。

かゆみの原因や皮膚バリア機能低下のメカニズムは未解明

アトピー性皮膚炎で患者を苦しめる一因がかゆみです。アトピー性皮膚炎のかゆみは、強いだけでなく持続時間が長く、夜間に表れやすいことが特徴です。そのため、患者の多くは睡眠不足に悩まされます。

 

また、熱や衣服との少しのこすれなど、通常では何も感じない程度の刺激でかゆみが生じる過敏症状もよく見られます。患者によっては出血が生じてもかき続けるなど、日常生活に大きな支障をきたします。かゆみの原因やメカニズムについては、まだ解明されていません。

 

1説では、炎症を起こしている皮膚から生成される特殊なタンパク質が原因の一つとされています。

 

また、皮膚バリア機能異常がなぜ起こるかということについても明確には分かっていません。生まれつきの遺伝子異常によりバリア機能の低下が見られる人がいますが、全体の約3割にすぎません。残りの7割については説明できないのです。遺伝子異常がない人であっても、周囲の環境などが好ましくない状態、例えばハウスダストやダニなどによってアレルギーを発症すると、皮膚バリア機能が著しく低下します。

 

現時点では、皮膚バリア機能異常とアレルギー、患者がかくことによる症状悪化という複合的な要因によってアトピー性皮膚炎が起こるという「三位一体説」が有力視されています。

 

 

石黒 和守

石黒皮膚科クリニック

院長(日本皮膚科学会認定専門医・医学博士)

※本連載は、石黒和守氏の著書『“前向き”アトピーライフ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・編集したものです。

“前向き”アトピーライフ

“前向き”アトピーライフ

石黒 和守

幻冬舎メディアコンサルティング

肌荒れや我慢できないかゆみなど、アトピー性皮膚炎は患者の心身に大きな負担を与える非常に厄介な疾患です。また完治が難しく、生涯にわたって慢性的な症状に悩まされ続ける患者も少なくありません。 皮膚科医であり、自身…

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