現場に決断を任せる
その結果として、決断をする社員には自然と権限と裁量が増えるようになったと思えるかもしれません。
しかし、経営理念を制定したからといって裁量が増えたわけではなく、これはあくまで仕組みを見直しただけのことです。以前は社長が不必要な決定まで担っていましたが、それを社員が判断するようになっただけで、実際に社員の裁量が増えたというわけではありません。一部の社員には、これを誤って「裁量が増えた」と認識しているケースも見られます。
その代表的な例が、管理課が作成して私に提出するキャッシュフロー表です。社員が独自の判断を求められる場面は増えましたが、裁量そのものが拡大したわけではありません。
私は管理課の経理担当に半年ほど先の現金の流れを予測する表(キャッシュフロー表)をつくってもらっています。
この表には、予測の根拠や、その要因が変わった場合にどうなるかも記載されています。作成にあたっては作成者の意見も書くことと、半年先ではなく何年先を見る必要があるのかを根拠とともに示すことも求めています。半年ではなくどれだけ先のことまで予測する必要があるのかを私に示すことなど、やろうと思えば私の指示がなくてもできたことです。
本人は裁量が増えたからできたことだと思っているかもしれませんが、それは違います。今では指示がなくても、もっと先のことも予測できますが、これは裁量が増えたからできたことではなく、きっかけさえあれば指示がなくてもできる能力があったから自主的にやっているのです。
会社のなかでは「裁量」という言葉は頻繁には使いませんし、裁量権を発揮する場面も限られています。重要なのは裁量権の行使ではなく、不透明な未来に対して決断をし、その決断を会社全体で共有することです。決断を下すのが社長である必要はなく、社員が自分で考えて決断し、その内容を上司や社長と共有する仕組みがあれば、会社全体で一貫した方向性を維持できます。
よく決裁書類の捺印欄には複数の印が押されていますが、これは上の立場の人に責任が移っていくことを示しているのではありません。各段階の印が、決断が一人で行われたものでなく、全員が共通の理解のもとで進めていることを表しているのです。
平井 康介
株式会社セック
取締役社長
