トランプ政権下の為替動向と今後の展望…当面は「関税政策による米国景気減速懸念」「リスクオフの円高圧力」続くか

トランプ政権下の為替動向と今後の展望…当面は「関税政策による米国景気減速懸念」「リスクオフの円高圧力」続くか
(※写真はイメージです/PIXTA)

2期目のトランプ政権が発足後、世界各国は矢継ぎ早に打ち出されるアメリカの経済政策への対応に追われています。金融市場も大きな影響を受けていますが、為替の動きはどうなるのでしょうか。これまでの動きを追いながら、今後の展望を探ります。SBI FXトレード株式会社の藤田行生氏が解説します。

就任後の為替動向…1月下旬、ドル円相場は158円台を記録

トランプ大統領の2期目就任後、米国経済の強化と貿易不均衡是正を掲げた政策が市場に大きな影響を与えてきました。とくに、メキシコやカナダ、中国への高関税導入が示唆され、これがドルを一時的に押し上げる要因となりました。

 

ドル円相場は1月下旬に158円台を記録し、トランプ政権の減税、規制緩和、移民政策がインフレを高止まりさせ、FRBの利下げ終了観測を強めたことで「トランプトレード」(ドル高・金利高)が加速しました。共和党が上下両院を掌握する「トリプルレッド」状態も政策実行力を高めるとの見方から、ドル買いがさらに進みました。しかし、2月に入ると、関税政策が米国経済を減速させる懸念が浮上し、ドル高は一服。

 

市場では、スティーブン・ミラン氏が米大統領経済諮問委員会委員長に指名され、ミラン氏が提唱したとされる「マール・アラーゴ合意」が注目され始めました。この合意は米国債再編やドル安政策を他国と協議する内容とされ、特にドル安政策への警戒感が市場に広がりました。

 

歴史を振り返ると、1985年の「プラザ合意」ではドルが1年で35%下落し市場にショックを与えました。その後は急激なドル下落を防ぐためになされた「ルーブル合意」でも急激なドル安を抑えきれませんでした。

 

これらの経験から「マール・アラーゴ合意」が現実化すれば相場の急変もあると市場には警戒感が強まり、ドルの上値は重くなりました。

 

3月初旬には、トランプ大統領が円安に不満を表明したこともあり、ドル円は150円を割り込む展開に。そして4月3日(日本時間)、新たに発表された追加関税政策が市場に衝撃を与えました。この関税強化策を受け、株価が急落し、リスクオフムードが急速に広がったことで、円買いが強まり、ドル安が加速する状況となりました。

今後の為替見通し:カギは関税政策・金融政策・地政学的要因

今後の為替動向を左右する要因として、以下の3つがカギを握ります。

 

①関税政策の影響

4月3日(日本時間)追加関税は、米国経済への打撃とグローバル貿易の混乱を招くとの懸念から、株価急落とリスクオフの円買いドル売りを誘発しました。この影響で、ドル円は短期的には145円を下回る可能性も浮上しています。

 

関税強化が続けば、インフレ率の高止まりからドルの高止まりも考えられますが、米国景気減速懸念が強まれば、ドル高は持続しにくく、むしろ円買いが優勢となるでしょう。一方で、関税によるインフレ圧力がFRBの金融政策に影響を与え、金利上昇が再びドルを下支えする可能性も否定できませんが、株価動向と景況感次第でしょう。

 

②米国の金融政策

トランプ大統領がFRBに低金利政策を求める姿勢を崩していない中、トランプ政権の関税政策の影響により米国の景気減速懸念が高まれば、市場は再びFRBの利下げが進むことを織り込みに行くと思われます。これはドル安要因となります。

 

一方、日銀は緩やかな利上げ姿勢を維持しており、仮に円安が進む局面では日銀の利上げ観測が強まるでしょう。これはドル円の上値を抑える要因となりそうです。

 

③地政学的要因

トランプ大統領はウクライナや中東での戦争終結を公約に掲げて当選したわけですが、解決は容易ではなく、地政学的緊張が続けばリスクオフの円買いがさらに進む可能性があります。

 

ドイツは地政学的リスクの高まりを受け、軍事費を増やすために財政を拡大することで対応することを検討しており、これはユーロ買いドル売りを呼んでいます。

 

今回のトランプ政権の関税政策による株価急落とドルの下落は、こうした地政学的リスクが招いた不確実性が市場心理に与えてきた影響が根底にあったと考えています。

 

逆に、和平が進展すればリスク選好が回復し、ドル円では円安方向に振れる可能性もありますが、現時点では不透明感が強い状況です。

 

以上の要因を踏まえ、筆者は関税政策による米国景気減速懸念とリスクオフの円高圧力が当面続くと考えます。年初2025年のドル円予想レンジを140~160円と見ていましたが、トランプ政権の政策運営をここまで見てきて、年央にかけて140円台前半を試す展開を想定し、年末までには130円台への突入の可能性もあると見ます。

過去1ヵ月の動向の振り返り(日本時間4月3日15時現在)

ドル円(USD/JPY)は、主に147~150円レンジで安定した動きを見せました。堅調な米国の経済指標やFRBの金融政策への思惑がドルを支え、日銀の利上げ姿勢が円安を抑える構図となりました。3月下旬にはレンジを上抜けし、151円をトライする場面もありましたが、4月3日(日本時間)の追加関税政策の発表で株価が急落し、リスクオフの円買いが急進し、ドル円は145円台に急落しました。

 

ユーロ円(EUR/JPY)は、ドイツの財政拡大への思惑からユーロ金利が上昇し164円台を試す場面がありましたが、米国の関税政策発表によりドル売りとなり、ユーロドルは上昇したものの、リスクオフの円買い圧力が勝ったことでユーロ円は160円台に急落しました。

 

新興国通貨に目を向けると、南アフリカランドは対円8.2円前後で比較的安定して推移していましたが、4月3日のトランプ関税政策により急激に円買いが進むと、8.0円を割れ7.55円近辺まで下落。トルコリラは対円4.0~4.2円前後で推移していましたが、トルコ政治に対する懸念から一時パニック的な売りとなり3.5円を割れる場面がありました。

 

トルコリラ売りが一巡すると3.9~3.95円でレンジ取引が継続し落ち着きを見せていましたが、こちらも同様に4月3日のトランプ関税により一時3.80円近辺まで急落しています。

 

 

藤田 行生
SBI FXトレード株式会社
代表取締役社長

 

※ 本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

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