トランプ発言を契機に、注目を集めるパナマ運河。カギを握る香港の大富豪の存在【国際税務の専門家が解説】

トランプ発言を契機に、注目を集めるパナマ運河。カギを握る香港の大富豪の存在【国際税務の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

トランプ大統領の発言を契機に、パナマ運河を巡る国際情勢が再び注目を集めています。特に、香港の大富豪・李嘉誠氏が率いる長江実業が運河周辺の港湾を経営していることが、米中関係の緊張を高める要因となっています。さらに、長江実業の国際的な税務戦略や、カナダでの租税回避に関する訴訟事例も注目されています。本稿では、パナマ運河の地政学的背景、長江実業の動向、そして国際課税の視点から本件の影響を詳しく解説します。

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パナマ運河を巡る報道

2025年1月、トランプ大統領は就任直後に、パナマ運河が中国の影響下にあるとの認識を示し、米国がその支配権を取り戻すべきだと圧力をかけました。その結果、パナマ政府は中国の「一帯一路」構想からの脱却を宣言しました。


パナマ運河はもともと米国資本によって建設され、1979年に米国が主権をパナマに返還するまで、運河周辺地域は米国の属領とされていました。このトランプ大統領の発言の背景には、運河の両端にある5つのコンテナ港のうち2つが、香港資本の長江実業(ハチソン・ホールディングス)によって経営されているという事実があり、米国は中国政府による運河支配のリスクを懸念していました。

中国企業による港湾の米国企業への譲渡契約の延期

2025年3月29日付のブルームバーグの報道によると、長江実業による港湾の米国企業への譲渡契約について、中国政府が批判しているという情報が香港筋から伝えられています。なお、パナマ運河を通過する貨物量が多い国の上位5ヵ国は、米国、中国、日本、韓国、チリです。

長江実業と李嘉誠氏

香港最大の企業グループである長江実業の現会長である李嘉誠氏は、第二次世界大戦後にプラスチック製の造花「ホンコンフラワー」の販売で利益を上げ、その資金を不動産などに投資しました。香港の不動産市場では、土地の所有権ではなく利用権を取得する形が一般的ですが、李嘉誠はこの投資を通じて莫大な財産を築きました。
 

その後、事業は2人の息子(ビクターとリチャード)に引き継がれました。長江実業グループは日本にも進出し、日本のホテルと合弁で都内にホテルを建設しています。
 

また、過去に長江実業が香港の資産を売却する動きを見せた際、市場では同社が香港の将来に見切りをつけたのではないかとの憶測が飛び交いました。2015年1月の報道では、長江実業がケイマン諸島に事業を移転する計画を発表しました。具体的には、香港にある長江実業とハチソンの2つの持ち株会社の上に、ケイマン諸島に設立した持ち株会社を配置するというものです。この手法は「コーポレーション・インバージョン(Corporation Inversion)」と呼ばれ、2000年代初頭に米国で流行しましたが、2004年の税法改正により規制されました。
 

カナダにおける税務関連訴訟

租税分野では、前出の李、ビクター親子が関与していたカナダのホテルに関する訴訟で、カナダにおける一般否認規定(GAAR)が認められた事案があります。2011年12月16日、カナダ連邦最高裁判所はGAAR適用を支持し、国側の勝訴となりました。


この事案は、香港の長江実業の創業者である李嘉誠一族が支配するグループ法人に関連するものでした。グループ法人の一つであるコプソーン持ち株会社は、1981年にカナダ・トロントのホテルを買収し、1989年にこれを売却して多額の譲渡益を得ました。


一方、同グループの別法人は投資に失敗し、多額の含み損を抱えていました。この含み損を実現させ、利益法人に帰属させたうえで、譲渡益の年度に繰り戻して通算しました。しかし、カナダ連邦最高裁判所はGAARの適用を認め、上告人の訴えを退けました。

 

本件は、租税回避に対する司法判断の基準を示す事例として、国際課税の分野で注目されています。

 

矢内一好

国際課税研究所首席研究員

 

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