社長がフルリモート
父が社長だった頃、社員は常に社長の指示に従って業務を進めており、自分で考えて決断することは求められていませんでした。
その結果、社員は自主性が乏しくなり、社長も社員に仕事を進めさせるために、常に会社に出向き指示を出し続けるという悪循環に陥っていました。仕事で必要な備品を購入する際にも社長の承認が必要な有り様だったのです。
この悪循環を断ち切り、社員が自分で考えて行動できる組織へと変革するためには、私が指示を出すのをやめるだけでは実現できません。「何かあれば社長に確認する」というのは、もはや習慣となっていたからです。
そのため社員が自分で判断できるようにするには、私が物理的に不在となり、社長への依存を減らす必要がありました。こうした理由から、私はリモートワークを導入することを決意したのです。
しかしリモートワークを始めるといっても、いきなり毎日会社に出社せずフルリモートを始めたわけではありません。当初は週に数日といった程度から始め、社員に自主的な決断と行動を促していきました。
もちろんリモートワークの開始当初は、社員には戸惑いがありました。「社長が不在のなかでどう決断すればいいのか」「重要な判断を間違えたらどうするのか」といった不安は抱えていたといいます。
当時、リモートワークを取り入れる経営者はまだ少数派であり、特に社長業をリモートで行うことは異例なことでした。父からも、「社長なのに出社しないのはあり得ない」と猛反対を受けました。
しかし、私はあえて現場に裁量権を与え、現場の判断を尊重する姿勢を貫きました。社員に「自分たちが会社の運営に関与している」という自覚をもたせるためです。すると、少しずつ社員に変化が表れ、自ら判断し動こうとする姿勢が見られるようになりました。
とはいえ数日でも社長が出社していると社員には心のどこかで私に頼ってしまうところがあったため、私が完全に出社しなければ社員はさらに自分で考えて行動するようになり組織の自走化が進むはずだと考えました。こうして私は在宅フルリモートワークに踏み切ったのです。
平井 康介
株式会社セック
取締役社長
