「もう限界」…決意した母の施設入所
3年ほどそんな暮らしを続け、85歳になった母の要介護度は3に。A子さんは自分の家庭、パート、母の介護の負担で心身ともに限界を迎えていました。
「これ以上、母に一人暮らしをさせるのは無理」
A子さんは、母を施設に入れるしかないと判断しました。夫や兄・妹にも事情を話し、幸運にも、あまり待つことなく特別養護老人ホーム(特養)に入れることになりました。
しかし、母の施設で兄・妹・A子さんと家族全員が揃った場で、母はぽつり、涙声で呟きました。
「家に帰りたいよ。なんでこんなことになったのかねえ。帰りたい……」
母の言葉に肩を落とすA子さん。その背中に冷たい言葉が浴びせられました。
「母さんが望んでないのに、無理やり施設に入れるなんて」
「お姉ちゃん、楽したかったんだ。だったら遺産を全部渡す話はナシだよ」
それまでのA子さんの介護の苦労を労うどころか、兄と妹は一転、遺産を平等に分けると言い出したのです。
兄妹との遺産争いが避けられない状態に「辛すぎる」
A子さんは、母の遺産だけが目的で介護をしてきたわけではありません。けれど、パートを減らした分収入も減り、母の生活費や入院時の雑費など、自分の家計から出したお金も少なくありませんでした。
「母の年金は月14万円くらいしかありません。最終的には遺産をもらうことになっていたので、細かいお金まで母親に請求しづらくて。夫にも相談して、私の方で立て替えていたお金も多かったんです」
身体も心もお金も削ってきた3年間。何もしてこなかった兄と妹が当然のように遺産を受け取ると言い出し、A子さんは呆然としました。
ところが、A子さんはここで気づきました。母は遺産について何度も「A子に多く渡す」と口にしていましたし、兄妹は「全部渡す」と言っていたものの、書面に残すことをしていなかったのです。
遺産は原則、法定相続人で均等に分けるのが基本。A子さんが介護で寄与分があったと主張するには、兄妹の同意が必要です。もめた場合は、家庭裁判所に申し立てるか、弁護士を立てて争うことになるでしょう。
母の介護で疲れ切った後、さらに兄妹と争うのか……? A子さんは、深いため息をつくしかありませんでした。
「遺産を全部もらうという話に乗らず、兄と妹にもできる範囲で介護に参加してもらえばよかった。遠方だって、時々来るぐらいのことはできるでしょう。それなら、遺産を等分に分けることにも不満もなかった。私が納得できないのは、何もしてこなかったのに、『母をないがしろにした』『楽をするために母を施設に入れた』と、本質と関係のない話を持ち出して遺産を受け取ろうとすることです。だったら、私がしてきた苦労は一体何だったのでしょうか?」
