「お義母さんをよろしく頼む」…始まった介護生活
「お義母さんをよろしく頼む」
夫の父が他界した日から、田中美咲さん(仮名・52歳)の介護生活は始まりました。義母の千代子さん(当時82歳)は認知症が進行し、昼夜逆転の生活に。夜中に突然外出しようとする義母を止めるため、美咲さんは何度も夜道を駆け回りました。
「夫も仕事と両立しながら懸命に介護していましたが、共働きの私たちには限界がありました」と美咲さんは振り返ります。
■介護が必要になる原因、第1位は「認知症」
厚生労働省『2022年 国民生活基礎調査の概況』によると、介護が必要となった主な原因は「認知症」が23.6%で最多。続いて「脳血管疾患(脳卒中)」が19.0%を占めています。
さらに『高齢社会白書』(令和5年版)では、75歳以上の被保険者の23.1%が要介護認定を受けていることが明らかに。「親の介護」は決して他人事ではなくなっています。
美咲さんも、次第に心身ともに追い詰められていきました。ある日、過労による体調不良で病院を受診した際、医師からこう告げられます。
「このままだと、あなたが先に倒れてしまいますよ」
■「親不孝」と言われるのが怖かった
地域包括支援センターに相談したところ、千代子さんは要介護4と認定されました。ただ、美咲さんの胸には「施設に入れるのは親不孝ではないか」という葛藤がありました。
「最後まで家で看取るのが当然だと思っていました。でも、ケアマネジャーさんに“家族が倒れたら介護は続かない”と諭され、ハッとしました。」と美咲さん。
厚労省の統計が示す通り、今や高齢者の4人に1人が要介護認定を受ける時代。「誰が、どう支えるのか」を家族だけで抱え込むのは限界に来ているのです。
■介護費用の壁――「どこで生活してもお金はかかる」
介護にまつわる悩みは時間だけではありません。「お金」の問題も大きな壁として立ちはだかります。
「在宅で介護を続ければ、費用は抑えられるだろうと思っていました。でも、現実は違いました」と美咲さんは振り返ります。
訪問介護のヘルパー代、デイサービスの利用料、福祉用具のレンタル……細かい出費が積み重なり、月に数万円が飛んでいきます。
「最初は“このくらいなら”と思っていましたが、これが地味に効いてくるんです。義母の年金ではとても賄いきれず、家計から出す額もじわじわ増えていきました」
それでも、「施設に入れるなんて親不孝」と悩み続けていた美咲さん。有料老人ホームを検討してみたものの、入居一時金が数百万円、月額費用が20万円以上の提示に、現実を突きつけられます。
「有料老人ホームは“お金がある人の選択肢”だと痛感しました。どこに預けてもお金がかかるなら、今のまま家で何とかやりくりしよう……と、ギリギリまで頑張ってしまったんです。」
けれど、限界はあっけなく訪れました。「もう無理だ」と感じたとき、運良く特別養護老人ホーム(特養)の空きが出て、義母の入居が決まりました。
「特養は比較的安価と言われますが、それでも月10万円前後の負担は続きます。でも、“このままでは誰かが倒れる”という状況を考えれば、迷っている場合じゃないと思ったんです。」
