超高齢化社会で「年間死亡者数」がピークを迎える日本
将来人口推計では、2039年には年間死亡者数が約167万人にも及ぶと予測されており、遺産相続の市場規模が拡大する可能性が高い。2015年に相続税が増税されたことから、生前贈与に注目する高齢者が増えているようだ。
遺産相続は既に巨大な市場になっていますが、今後も引き続きかなり高い伸びが予想されます。超高齢社会の到来が相続市場の規模拡大を促しているからです。国立社会保障・人口問題研究所が2012年に発表した将来人口推計では、年間の死亡者数のピークは2039年の166.9万人(死亡中位)で、2009年の114.2万人からは46%も増加するとしています。
日本の資産の大半を高齢者が保有する現状では、死亡数の増加はそのまま遺産相続の規模の拡大に繋がる可能性が高いでしょう。
国税庁のデータで捕捉されている相続額は10-11兆円ですが、このデータの対象となる被相続人は年間死亡者数の4%台に過ぎません。一般に、相続には基礎控除や配偶者控除などがあり、控除を下回る相続額の場合には、この統計には捕捉されないのです。
ということはそれ以外の相続がかなりあるということでもあります。公表されている統計や2012年2月に実施した相続人5500人アンケートなどの結果から推計してみると、先の国税庁のデータを含めて年間40 -50兆円の規模になっていると推計されます。
「相続税の基礎控除」の引き下げで生前贈与が増える!?
さて、前述のとおり亡くなった人の4%程度しか相続税を支払っていないこともあり、これまで何度となくこの分野の課税対象を広げて税収の拡大を図ろうとする動きが持ち上がってきました。そしてついに、2015年から相続税の基礎控除が引き下げられることになりました。
具体的には、基礎控除が大枠で6掛けになっています。従来は5000万円に法定相続人1人当たり1000万円を加えた金額でしたが、2015年からは3000万円に法定相続人1人当たり600万円となっています。例えば、奥様が亡くなって子ども2人の法定相続人の場合には、基礎控除額は従来が7000万円(=5000万円+1000万円×2人)でしたが今年から4200万円(=3000万円+600万円×2人)に引き下げられることになります。また、最高税率も従来の50%から55%に引き上げられています。
これは2つの面で影響を与えそうです。1つは、相続税額の増加であり、もう1つは相続税対象者の増加です。前者は、基礎控除が小さくなる分、従来よりも課税対象額が増えるということです。例えば前述の例で1億円の相続を受ける人は、従来なら基礎控除を差し引けば3000万円が相続税の対象課税額だったわけですが、今年から同じ1億円の相続を受けた場合には5800万円が相続税の対象となるのです。
後者は、これまで7000万円以下の相続だった人は相続税の対象ではなかったのですが、今度は4200~7000万円の相続を受ける方が新たに相続税を支払う対象者になるということです。4200万円は特に土地を保有している場合には比較的簡単に届く金額で、東京都内や大都市圏では、新たに相続税を心配する人が増えているだろうと推測されます。相続税を支払う対象者は、これまでは全体の4%台でしたが7%台にまで高まるとの予測があったり、東京都内の一部地域では一気に20%台に対象者が広がると懸念されたりしているようです。
こうした2つの面での影響は、相続税対策として生前贈与への志向を強める動きに繋がっています。生前贈与は現状の制度で年間110万円まで基礎控除が認められていますから、2人の子どもに10年間、基礎控除の限度額いっぱいに贈与を行えば、2200万円の資産を非課税で贈与することができます。これに注目する人が多いのもわかります。
現状では60歳以上の高齢者が金融資産の6割を保有していると推計されます。その資産が子ども世代、孫世代に移転されれば、その世代の資産形成への大きな力になりますし、特に子どもの教育費を祖父母に負担してもらえるなら、その分、親世代の生活は楽になりますから、支出が増えて景気への浮揚にもつながることになります。
相続税の増税は厳しいことではありますが、その副次効果で世代間の資産の移転を促すのであれば、それは評価したいところです。ちなみに、2013年4月から始まった1500万円までの教育費の非課税贈与(正式には教育資金一括増に係る贈与税の非課税措置)は1年半ほどの間に5000億円を超える贈与実績に繋がりました。また、祖父母や叔父・叔母が孫や甥・姪の教育のための資金を拠出して、非課税で投資できるジュニアNISAも始まっています。
【図表 死亡者数の推計】