約40年にわたり国内外の景気分析をしてきたエコノミスト・宅森昭吉氏が、景気や市場を先読みするヒントを紹介する本連載。今回は「JRA売得金と景気の関係」を見ていきましょう。

競馬の売上高は「景気が良いほど伸びる」

 「JRA(日本中央競馬会)売得金・前年比」と、平成元年から令和6年(1989年~2024年)までの「名目GDP・前年比」の相関係数は0.71と高い数字になっている。

 

売得金とは、勝馬投票券の発売金から返還金を引いたものだ。勝馬投票券が発売されたあと、ある馬が出走取消・競走除外となった場合は、その馬もしくはその馬(枠)の組み合わせの投票券のすべてが同額で投票者に返還金として返される。

 

競馬の売得金は「不況になると伸びる」と見る向きもあるが、事実は違う。収入が減ったのでギャンブルで一儲けしようと考える人も少しはいるのだろうが、やはり景気がよく、収入も伸び、懐具合がよいほうが競馬の売上高も伸びるようだ。

実際に「JRA売得金の動向」と「平成・令和の景気」を比較

平成元年から令和6年までの35年間を振り返ってみよう。平成元年(1989年)と2年(1990年)はバブル景気の終盤であった。名目GDP暦年の成長率は7%台を記録した。平成3年(1991年)にバブル景気は後退局面を迎える。それ以降、名目成長率は大きく鈍化するが、減少となるのは、金融危機の影響を受けた平成10年(1998年)からだ。

 

平成15年(2003年)までの6年間は、平成12年(2000年)を除いてマイナス成長である。平成16年(2004年)から平成19年(2007年)の4年間はわずかな増加にいったん戻るが、リーマンショックによる不況の影響で、平成20年(2008年)、平成21年(2009年)、そして平成23年(2011年)と再び減少に戻ってしまった。

 

しかし平成24年(2012年)以降、令和6年(2024年)にかけて新型コロナウイルス感染症が発生しマイナス成長になった令和2年(20年)を除き、増加基調が継続している。

 

JRA売得金の暦年ごとの前年比をみると、まず平成の初めの3年間(平成元年~3年、1989年~1991年)は2ケタの増加になった。その後伸び率が鈍化し、平成4年(1992年)以降は前年比1ケタの増加が続き、ついに平成7年(1995年)には▲1.1%と初めての減少を記録。平成8年(1996年)、9年(1997年)といったんは増加に戻ったが、金融危機の影響で名目GDPの成長率と同じく平成10年(1998年)から再び前年比は減少に転じ、平成23年(2011年)までの14年にわたり減少基調が続いた。

 

平成24年(2012年)からは持ち直し、令和6年(2024年)にかけて13年連続で増加が続いてきた。新型コロナでマイナス成長になった令和2年(2020年)でも、売得金の前年比はJRAの対応策が奏功し増加となった。

 

令和6年(2024年)のJRA売得金は3兆3,134億9,707万600円で、前年比は+1.2%である。緩やかながら景気拡張局面が続いていたことと整合的な数字といえよう。

 

[図表1]JRA売得金・前年比と名目GDP・前年比推移

コロナ禍入りした2020年を詳しく見ると…

新型コロナウイルス発生の影響を大きく受けた令和2年(2020年)について詳しく見よう。JRA売得金の年初からの累計金額は、2月23日までは前年比+0.4%とプラスの伸び率だった。マイナスに転じたのは、無観客レースとなった2月29日から3月1日までの週である。そこから入場者は週を追うごとにマイナス幅を拡大し、上半期最終週となる6月28日週の累計で前年比▲74.4%になった。

 

ネット(ごく一部が電話)でしか馬券が購入できなくなったため、売得金は当初は減少傾向で、5月3日の週までの累計で▲6.2%まで悪化した。しかし、そこから改善し、上半期最後となる6月28日までの週の累計では前年比▲3.2%まで戻した。

 

8月9日までの週の累計では、前年比+0.5%と増加に転じた。コロナ禍で無観客レースを強いられるなかでも、ネット販売を中心として、しっかり売上を増加基調に戻している。新型コロナウイルスの感染拡大防止と経済の両立が成立した。

 

10月25日までの週の累計売得金は、前年比+2.2%増加と2%台に乗せた。10月25日に行われた菊花賞では一番人気のコントレイルが見事に勝利し、父・ディープインパクト以来となる「無敗の3冠馬」に輝いた。菊花賞の売得金の前年比は+30.4%と、前週開催されたG1レース秋華賞の同+40.1%に続き2レース連続で2ケタ増加になった。

 

ファン注目の11月29日ジャパンカップには、コントレイルに「史上初の無敗牝馬3冠」を達成したデアリングダクト、「史上初の芝G18冠」を達成したアーモンドアイが揃って参加。結果、アーモンドアイが優勝し9冠となった。売得金は前年比+47.5%の増加とさらに伸びた。

 

ジャパンカップの売得金前年比は、2020年のG1レースにおいて最高の伸び率となった。結果として、2020年のJRA売得金の前年比は+3.5%。開催場入場人員の前年比は▲84.1%だった。

 

[図表2]2020年JRA売得金・年初からの累計前年比推移

24年は最終的に「13年連続前年比増加」。25年は年初から堅調

令和6年(2024年)の動きも振り返っておこう。JRA売得金の年初からの累計金額はプラス基調を維持してきたものの、年初から6月初めまで伸び率が鈍化傾向だった。6月2日時点・6月9日時点では連続して+0.4%と最低の伸び率になり、もたつきが感じられたが、そこから徐々に持ち直し、9月29日までの年初からの累計前年比はいったん+1.6%まで戻している。

 

しかし、10月・11月の「年初からの累計前年比」は再びもたつき+0.8%~+1.2%の間で推移。12月は、15日まで年初からの累計前年比は3週連続+0.8%だったが、22日までで+0.9%、28日の最終日までで+1.2%と持ち直して終わった。紆余曲折はあったものの、最終的に24年の前年比は+1.2%で、13年連続前年比増加になった。

 

なお、令和7年(2025年)は2月23日までの年初からの累計前年比が+5.3%と堅調である。

 

[図表3]2024年1月~2025年2月JRA売得金・年初からの累計前年比推移

 

 

宅森 昭吉

景気探検家・エコノミスト

景気循環学会 副会長 ほか

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