企業成長に応じて変化する事業承継の課題
企業は、成長に伴って売上高や利益、資産規模が拡大します。企業の規模拡大は、社会に与える影響が大きくなり、企業の利害関係者も増加することになりますが、それだけではありません。企業の成長は、企業存続の重要な課題である事業承継にも影響を与えるのです。
つまり、企業の成長に伴って、企業を取り巻く文脈が変化していき、成長段階に応じて事業承継に与える影響が変化します。具体的には、事業承継が成長プロセスのどの段階で行われるかによって検討するべき課題が変わってくるのです。
経営・資産・同族という要素ごとの成長プロセスが重要
前回の連載では、ファミリービジネスの現象を「経営」「資産」「同族」という三つの要素で考察する必要性について述べました。実は、ファミリービジネスの円滑な事業承継のためには、三つの要素ごとの成長プロセス(スリー・サークル・モデルの発展段階モデル)を検討していかねばなりません。
以下、「経営」「資産」「同族」における各成長プロセスの視点から、事業承継を考えていきましょう。
第一の「経営」の発展段階では、企業に創業期、成長期、成熟期というライフサイクルが存在することを考慮して事業承継の対策を考えていく必要があります。創業期は経営を軌道にのせること、成長期は市場シェア獲得などが課題となる段階であり、成熟期は閉塞感を打破するための多角化が検討される段階です。成熟段階にある企業では、世代交代を契機にして事業の多角化を行うケースも見受けられます。
第二の「資産」の発展段階では、企業規模の拡大に伴う出資者の多様化という課題を検討しつつ、事業承継対策を立てなければなりません。企業規模の拡大は、資本の増加に繋がると共に、株式(会社所有権)の分散の程度が大きくなります。
株式の分散の程度が大きくなるということは、企業経営にモノ言う利害関係者が増加することを示します。株式の分散の範囲をどのようにマネジメントするのか、もしくは多様化する株主とどのような関係を築いていくのかを検討することは、ファミリービジネスの事業承継と企業統治にとって重要となります。
第三の「同族」の発展段階では、ファミリービジネスの所有や経営に関与する同族の変化を分析する際に重要となります。創業者単独から親子共同就業、世代交代など、時間経過に伴って所有と経営に関与する同族の態様は変化していきます。同族の態様が変化する中で、いかに建設的な同族関係を築いていけるのかを検討することは、ファミリービジネスの持続的成長にとって重要です。
下記の図表の発展段階モデルにおける企業の位置づけは、自社のおかれる状況によって異なります。
例えば、「資産」軸では最初の「単独オーナー」期に位置していても、「経営」軸では終盤の「成熟」期に位置している企業があります。他方で、「同族」軸では最後の「世代交代」期に位置していても、「経営」軸では序盤の「創業」期に位置している企業があります。
円滑な事業承継を実現するためには、自社が発展段階モデルの三つの軸においてどこに位置づけられるのかを分析して、事業承継対策を検討することが重要となります。
【図表 スリー・サークル・モデルの発展段階モデル】
<参考文献>
『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』(落合康裕、白桃書房、2016年)
『ファミリービジネス白書2015年度版:100年経営をめざして』(後藤俊夫・落合康裕編、同友館、2015年)
「会社法務A2Z」〈ファミリービジネス(同族経営)はなぜ強いのか〜三代以上「永続」する条件〜〉(8-15頁、武井一喜)(第一法規株式会社、2010年)
Gersick, K. E., Davis, J. A., Hampton, M. M., and Lansberg, I. S. (1997) Generaition to Generaition : Life Cycles of the Family Business, Harvard Business School Press (『オーナー経営の存続と継承』犬飼みずほ・岡田康司訳、流通科学大学出版、 1999年)