税務調査で「生前贈与」が認められなかったワケ
実は、Aさんと夫は贈与を決断する際、知り合いの税理士からきちんとアドバイスを受けていました。しかし、「毎回契約書を作成するのは面倒だから1枚にしよう」と、下記の内容で契約書を作成していたのです。
この書き方の場合、贈与契約書の作成時点で親は子に「定期金に関する権利(5年間にわたり毎年110万円ずつ給付を受ける権利)」を渡したことになってしまいます。
これにより、結果として550万円の贈与があったものとして、贈与税が課せられることとなってしまったのでした。
相続税は、遺産総額が多くなるにつれ税率が高くなります。最高税率はなんと55%です。遺産が多い場合、課税対象となる財産の半分以上を税金として納めなければなりません。
そのようななか、平成25年度の税制改正により基礎控除額が減額されたこともあり、相続税対策を講じている人は増えています。そして、その代表的な手段のひとつが「生前贈与」です。
生前贈与においてはその証拠を残すため、贈与契約書の作成を勧めます。ただ、この「贈与契約書」の作成には注意が必要です。
たとえば、次の2つの例を比較してみましょう。
1.「現金110万円を贈与する」という契約書を、5年間毎年作成して贈与する
2.「現金110万円を5年間にわたり贈与する」という契約書を最初に作成し、その後5年間贈与する
上記のいずれも「計550万円が贈与される」という事象は変わりません。①のように毎年贈与を行うことを「連年贈与」といいます。この場合、1年ごとに贈与税の計算をすることになり、毎年110万円の非課税枠を使えることから、贈与税はかかりません。
しかし、②の場合は「定期贈与」とみなされます。実際の贈与が年をまたいで複数回行われたとしても、契約書を交わした年に550万円を贈与するという契約をしたとされ、「年間110万円の贈与」ではなく、「計550万円を受け取る権利の贈与」と判断されてしまうのです。
このため、生前贈与を行う場合は「贈与の都度」契約書を作成したほうがよいでしょう。