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税金の仕組みは複雑で、私たちの生活に予期せぬ影響を与えることがあります。特に、税制に関する誤解や隠されたからくりに気づかず騙されてしまうことも。本連載は、弁護士の三木義一氏の著書『まさかの税金──騙されないための大人の知識』(筑摩書房)から抜粋・編集した内容をお届け。三木氏は、2019年から東京新聞の木曜朝刊『本音のコラム』欄を担当し、税制や社会問題を鋭い視点で論じています。軽妙な語り口で解説する「税法のご隠居」の税金問答は、制度や権力の闇に鋭くツッコミを入れるスタイルが特徴です。同書では、コラムの一部を抜粋し、さらに深掘りした内容を収録しています。今回は、売上税法案との違いや、消費税の歴史を振り返りながら、インボイス制度導入の背景とその影響をわかりやすく解説します。

軽減税率の罠?…インボイス制度が導入されるまで

「八っつあんも消費税の免税業者だったの〜」

 

「てへ、働けど我が暮らし楽にならない零細業者でございます」

 

「だが、わしが頼んだ仕事で代金1万円に消費税1000円をつけておったぞ」

 

「ご隠居、固いことは言っちゃいけねえ」

 

「別に怒っておらん。というのは、わしの仕事の消費税額からお前さんに払った1000円は帳簿をつけておけば引けるからじゃ。これが日本独特の帳簿方式じゃ」

 

「てえと、あっしは1000円国に納めていないのに、ご隠居はその分引けちゃうってことだ」

 

「そう。だから、免税業者も取引から排除されずにすんだんだが、国からすると大問題だったんだ。これが変わるぞ」

 

「どう変わるんで?」

 

「お前さんとは取引できなくなる。だって、免税業者でインボイスがないから、控除できる税額がない取引になる」

 

「ひえ〜どうしよう」

 

「課税業者になるしかない。インボイスを交付できるようになる。だが、1000円の消費税も負担することになるの〜」

 

「じゃ、あっしの手取りは減っちゃう。何でそんなことに?」

 

「軽減税率を導入したからじゃ。単一税率なら今までの方式でも可能だが、複数税率じゃ無理、というのが口実じゃ」

 

「軽減税率で負担軽減と思いきや、零細業者の手取り額も軽減とは、これはまさしく隠謀(いんぼう)ィす!」

 

(2022・11・3)

 

軽減税率を導入したため、財務省から複数税率で現在の帳簿方式では無理だと言われ、ついにインボイスの導入となった。

 

今から37年前の1987(昭和62)年4月、国会は売上税法案の可否をめぐって紛糾、結局廃案に追い込んだが、わずか1年半後の翌1988(昭和63)年12月、今度は消費税という名の税法が自民党の賛成多数で可決、成立したのである。

 

一体この2つの税法の間にはどんな違いがあったのか確認しておこう。

インボイス制度導入で“封印されたこと”

売上税法案の方には第38条に「税額票」の規定があり、この税額票といわれるものが今日騒がれているインボイスのことであった。これに対して、消費税の方には税額票の規定がすっぽり削除され、代わりに仕入税額が帳簿等に基づいて控除できるという、日本独自の方式に変わっていたのである。

 

両者の決定的な差異は免税業者と言われる零細事業者の取り扱いの差であった。売上税法案の仕組みでは免税業者と取引をすると、免税業者は税額票を発行できないので、取引業者は仕入れ額があっても自分の売上税額から引ける税額がないことになる。そうであれば、税額票を交付できる業者、つまり課税業者と取引をした方が税負担は軽くなり、免税業者は取引から排除されてしまうという批判が大きな反対の声となり、売上税法案は廃案となったのである。

 

そこで、税額票の部分を削って、免税業者との取引でも、帳簿に記載しておけば、仕入れた業者は仕入額には税率分の消費税額が引けるようにしたのだ。その結果、免税業者が取引から排除されずに、それどころか場合によっては免税業者からの仕入れの方が有利になるようになったのである。

 

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これがインボイスの導入により封印されることになったのである。もちろん、最初は緩やかにし、徐々にインボイスなしには絶対控除できないように締め付けていくことになる。

 

消費税の税収が所得税、法人税を抜いて第1位になった今、この制度改正がどういう影響を社会に与えていくのか注目していこう。

 

 

三木 義一

弁護士

青山学院大学名誉教授

 

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