「ふるさと納税」から「官製通販」へ……
ふるさと納税制度で多額の返礼品を提供している4市町に対し、総務省は2019(令和元)年3月、突如特別交付税を削減するという奇策をとった。実質的ペナルティーである。
ふるさと納税制度は、2008(平成20)年に導入された制度で、当初はそれなりに画期的であった。何よりも、私たち納税者が、応援するふるさとに寄付をし、その分住民税などが減額されるので、自分の税金の使い道を自分で決定できる要素があったからである。
ところが、事態は思わぬ方向に進んでしまった。自治体が提供する返礼品に関心が集まり、自治体の政策を支えるためでなく、どの自治体に寄付すると返礼品と減税額を合わせて得になるか、という「お得度」を競う制度になってしまったからである。
これは制度として完全な失敗だ。本来自治体の優れた政策、例えば文京区の「こども宅食プロジェクト」に共鳴した納税者が、自分の住民税の一部を回すことを認めるもので、儲けるためのものではない。どうして税や寄付で見返りを求めようとするのだろう。
制度を根本的に改めるべきだろう。住民税の税率を1%引き上げて、その1%部分は各自治体の施策リストから納税者が選択して回せるようにすべきだろう。
えっ、それでは「ふるさと増税」ではないかだって? いいえ、増税ではなく「ふるさと贈税」です!
(2019・3・28)
「ご隠居、ふるさと納税がますます増えているようですぜ。ありゃ一体、税なんですか?」
「おっ、良い質問じゃの〜。税とは何か! その本質に迫る鋭い質問だ」
「へへへ、何なんで?」
「ふふふ、分からん」
「え〜〜? ご隠居、もうぼけちゃった?」
「日本の法律には税を明確に定義した規定はない。だから、国民健康保険税という奇妙な税もある。税として徴収すれば税になるのじゃ」
「え〜? なにそれ」
「ちゃんと定義している国もある。ドイツの租税基本法は『税とは、特別の給付に対する反対給付ではなく、法律が給付義務をそれに結びつけている要件に該当するすべての者に対し、収入を得るために公法上の団体が課す金銭給付をいう』と定義している。一番重要な点は、具体的な給付に対する反対給付ではないことだ。この点で使用料・手数料などとは異なる」
「てえと、返礼品目当ての納税というのは税の納付ではない?」
「元々は納税者が使途を決められる点に意味もあったが、今では具体的返礼品目当ての支払いになってしまった。だから、合法的脱税とか、官製通販と言われておる」
「誰のせいでこんなことに。政府? 政治家? それとも官僚? あるいは自治体のせい?」
「ネーミングだの」
「?」
「ふるさとのせい」
(2021・12・23)
2008(平成20)年に始まったふるさと納税は、当初は、ふるさとなどの地方自治体を応援するため、納税先や使い道を決められるというものだった。納税者が税の使い道を決められるという点に、意味があった。私のところに、ドイツ人記者が来て、これを税と言えるのか、評価できるのか、と尋ねられたとき、私は納税者に使い道に関心を持たせるという意味で評価できると答えた。
しかし、この制度は当初の趣旨とは異なりはじめ、返礼品目当ての税負担回避策に変質し、今では、返礼品目当ての「官製通販」と言われる状態となっている。しかも、高所得者ほど多くの返礼品がもらえるため「富裕層減税」措置になってしまっている。
自治体間競争の過熱……ふるさと納税が生む税収流出
インターネットで検索すると、ふるさと納税関連業者(仲介サイト)がうまみのある仕組みを盛んに報道し、自治体間の競争を煽っている。国と自治体の競争ではなく、自治体間の競争なので、寄付が増える自治体の分は寄付した者の住んでいる自治体の税収の流失になる。
2023(令和5)年度の場合、最多は横浜市の約304億6700万円、次いで名古屋市の約176億5400万円が流失している。しかも、経費率は多くの自治体が5割近くに達し、住民サービスに使うべきふるさと納税された税金の半額ほどが経費として消えている。
総務省も何度も制度を修正し、2025(令和7)年10月からは業者が出しているポイント制を禁止するとしているが、寄付で減税とおまけ(返礼品)という基本構造が変わらないため、また別の仕組みが作り出され、事態はますます深刻になっていくように思われる。
三木 義一
弁護士
青山学院大学名誉教授
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