今回は、遺産分割協議書について見ていきます。本連載は、日本公証人連合会理事・栗坂滿氏の著書、『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』(エピック)の中から一部を抜粋し、遺言、相続にまつわるトラブルとその予防・解決法を紹介します。

銀行に亡夫の預金の引き出しを断られた妻

≪トラブルの事案≫

夫Aさんと妻Bさん夫婦は長年連れ添ってきた仲のいい夫婦ですが子どもには恵まれませんでした。2人とも既に両親は亡くなっていますが夫のAさんには兄、姉、妹の3人のきょうだいがいます。ただ兄は昨年妻と3人の子ども(甥2人と姪1人)を残して他界しました。

 

夫Aさんは自分が亡くなれば自分名義の宅地や居宅それに預貯金類は全て妻のBさんが1人で継ぐものと考えていたため遺言書は書いていませんでした。

 

このような状況で夫のAさんが亡くなりましたが、葬儀納骨が終わって落ち着いてから妻のBさんが夫の預金を引き出しに銀行に行ったところ、銀行から、「戸籍を見るとAさんの相続人はBさん以外に兄の子ども3人と姉と妹がいることが明らかなのでその全員の実印が押された払戻しについての同意書か遺産分割協議書と全員の印鑑証明書がいります」と言われてしまいました。そんなことってあるのでしょうか。

 

相続人が一人でも欠けたら作成できない遺産分割協議書

*遺産分割協議書ってなんですか?

人が亡くなると、その死亡した時点でその人が有していた財産について、誰が相続するか権利を確定する必要があります。この手続きが遺産分割です。

 

亡くなった人の相続人が複数いる共同相続の場合は、相続財産は、相続人の相続分に従って共有状態にあります(民法898条)。この状態から、個々の相続財産について、最終的に誰の単独所有とするかなど分割方法を相続人が話し合うのが遺産分割協議であり、遺産分割協議では、相続人全員が同意すれば、法定相続分と異なる相続分での遺産分割もできます。

 

相続人が話し合って合意した遺産分割の内容を記載した書類を遺産分割協議書といいます。遺産分割協議書の作成に当たって注意すべきことは、相続人が1人でも欠けたらダメということと、各相続人が署名し(記名でも良いものの後のトラブルを避けるためには署名が望ましいでしょう)、実印を押しておくことです(実印であることを明らかにするため印鑑証明書の添付が必要です)。

 

相続人の中に未成年者がいる場合は、その親権者又は後見人が遺産分割協議に加わることになります。また、相続人の中に、意思能力や判断能力に問題がある者がいて成年後見人がいない場合は、先ず成年後見の申立てを行ってから選任された成年後見人が代わって協議に参加することになります。

 

既に成年後見人又は任意後見人(遺産分割協議に加わることも授権されている場合に限ります)がいるなら、その者が協議に参加することになります。相続人の中に、不在者がいるなら、不在者財産管理人が遺産分割協議に加わりますが、遺産分割協議を行うには家庭裁判所の許可が必要となります(民法25条、28条)。

本連載は、2016年8月1日刊行の書籍『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

栗坂 滿

エピック

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