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社長が受け取る「役員退職金」は、単なる報酬ではなく、経営者の人生設計において重要な資産となります。しかし、税務上の扱いを誤ると、退職金が損金(経費)として認められず、予想以上の税負担が発生するリスクも。税務署は、役員退職金が適正かどうかを判断するために「3つの基準」を設けています。この基準をクリアすることで、税務上の優遇を受けやすくなります。本記事では、税理士・行政書士の清野宏之氏と社会保険労務士の萩原京二氏の共著『社長の資産を増やす本』(星野書房)から一部抜粋、編集し、社長の退職金に対して税務署がチェックする「3つの基準」と、役員退職金に関する重要な知識について解説します。

“きちんとした手続きを経たうえで”支給しなければならない

役員退職慰労金の「形式基準」とは、「きちんとした手続きを経たうえで支給しているか」ということです。具体的には、役員退職慰労金の支給は会社法上、株主総会の承認が必要となっているのです。

 

何度もお伝えしているように、役員退職金が税法上も損金算入されるには、株主総会の決議を経る必要があるのですが、中小・零細企業は株主総会で決議せずに退職金を支払うケースも散見されます。これでは、損金算入を否認されてしまいます。ここは、役員退職金の非常に重要なポイントです。

 

もっとも、手続きを踏めばかならず損金算入できるわけではなく、金額が過大な場合や、次に解説する実質基準を満たしていない場合には、損金として認められなくなります。

 

ただ、正しい手続きを踏んだうえで役員退職金を支払うことは、最低限行っておきましょう。

 

役員退職金規程がなかったとしても、株主総会の決議を経て支払われていれば、税務上は間違った手続きではないので、損金算入が認められます。

 

従業員は退職金規程に定められていれば、かならず退職金を受け取ることができます。一方で役員退職金は、定款に定めがなければ(役員退職金の計算方法を定款に定めている会社はほとんどありません)、株主総会の決議がない限り、役員退職金規程があっても絶対にもらえるものではありません。

 

この点は、従業員と役員の退職金における大きな違いと言えます。

 

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実質的に退職したものと認められなければならない

中小・零細企業の場合、社長を退任したものの、経営から完全に離れずに影響力を持ち続けるというケースがあります。

 

退職後も経営上主要な地位を占めている場合は、退職したものと認められないため、損金算入が否認されてしまいます。これが、役員退職金の「実質基準」です。

 

たとえば社長が退職したあと、院政のように経営に携わっていては、退職したとみなされない可能性が高いのです。

 

法人税基本通達において、分掌変更(社長が会長や監査役に退きながら、引き続き会社に在職すること)などにともなって受け取った役員退職金については、次の①〜③の要件に当てはまれば、実質的に退職したものと認められ、退職金の扱いで損金算入できるとされています。

 

①常勤役員が非常勤役員になったこと

 

非常勤であっても、代表権を有していたり、実質的に会社の経営で主要な地位を占めていると認められたりする場合は退職とみなされないため、注意が必要です。

 

②取締役が監査役になったこと

 

監査役であっても、実際は会社の経営で主要な地位を占めていると認められる場合や、会社の株式の保有割合が所定の基準を超えている場合は退職とみなされないため、注意が必要です。

 

③分掌変更後にその役員の給与が概ね50%以上減額されたこと

 

これも、分掌変更後に会社の経営で主要な地位を占めていると認められる者の場合は、退職とみなされません。

 

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