社長の考えがひっくり返った「妻の一言」
本稿で紹介するのは、「そもそも、亡くなるまで社長を続けたいか? それとも、誰かに引き継ぎたいか?」という、社長が自分の退任後の生き方をどう選ぶかに関する重要な話です。
あるお客様の事業承継に関する案件で、非常に興味深いことがありました。
このお客様は社長退任にともない、ご子息へ会社を継承し、生存退職金を数千万円受け取りたいとのことで、話を詰めていたのです。
ところが、この社長と奥様が一緒にわたしの事務所へお越しいただいたとき、奥様のひと言で話がひっくり返りました。
そのひと言とは……「あなたは70歳で完全退職するなんて、多分無理よ。だって、息子がやっていることに絶対口出しするし、うまくいかなかったらイライラする。給料をもらいながら一生会長職をやっていたほうが、あなたには合っているよ」といったものでした。
このご夫婦は、30年以上二人三脚で会社経営を行ってきたこともあり、奥様は社長のことを誰よりもわかっています。それだけに、このご意見にはすさまじいパンチ力がありました。
言われた社長は、もともと数千万円を生前に受け取る気でいたのですが、苦笑いしながら「そうだよなあ」と言っていました。
これは一見微笑ましいのですが、わたしなりに大きな気づきが2つあったのです。
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「退職金を生前に受け取るか」「生涯現役を貫くか」で、退職プランも変わる
気づきのひとつ目は、「生前に退職金をもらわなければいけないわけではない」ということです。これまでわたしは、生前退職金と死亡退職金をほとんど区別していなかったのですが、社長には仕事を好きな人が多いので、一生社長のままでいることがご本人やご家族にとってしあわせならば、それも選択肢になるはずです。
2つ目は、退職金の額です。ひとつの考え方ですが、たとえば生前にもらう退職金が1億円だったとしても、それなりの年齢になってから死亡退職金として奥様に残すのであれば、2000〜3000万円でもいいのではないか、ということです。
死亡退職金の額は、生前退職金と同じ1億円ではなくてもいいのかもしれません。もちろん、社長が亡くなったあとに受け取るお金は多いに越したことはありませんが、少なくとも2000〜3000万円の退職金額なら、税務署から「過大だ」と言われることは、ほとんど考えられません。
もし奥様が異論を挟まないのであれば、問題はないはずです。いつまで現役でがんばるかは、社長ご本人の生き方の問題です。人によっては、このような選択肢があってもいいとは思いませんか?
余談ですが、おそらくその社長とわたしの2人だけで話をしていたら、生前退職金の話だけになって、社長やご家族が心の底で望んでいることはわからなかったかもしれません。ご夫婦揃ってお話ししたことが、きっとよかったのでしょう。
事業承継にも関わることではありますが、中小企業は家族経営を行っていることが多いので、退職金も含めた事業承継については、夫婦お2人や後継者となるお子様を交えた話し合いを行うことが、非常に有効と言えます。
清野 宏之
税理士・行政書士、清野宏之税理士事務所所長
萩原 京二
社会保険労務士、働き方デザインの学校校長、一般社団法人パーソナル雇用普及協会代表理事
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