調査官から告げられた「まさかのひと言」
Aさん「ああ、これは父の形見ですよ。父は腕時計を集めるのが好きで、いくつかコレクションをしてましてね。それを僕が形見として受け継いだんです。そう考えると、父は腕時計に一番お金を使っていたかもしれないですね。家と預貯金はおふくろに全部渡しましたから、これが親父との唯一のつながりです」
調査官「なんと……それは素晴らしいお話ですね。コレクションというのは、いまも保管していらっしゃるんですか? もしよろしければ、見せていただけないでしょうか」
Aさん「ああ、ありますよ。もちろん構いませんが、そんなものを見てどうするんですか? ただの形見ですよ」
そしてコレクションが飾ってある一室へ案内すると、その高級腕時計の数々に、調査官は感嘆の声を上げました。
調査官「これはすごい! ロレックスに、パテックフィリップ……私もそんなに詳しくないですが、有名な時計も結構ありますね」
Aさんが喜んでいると、調査官は冷静に言いました。
調査官「これは相続財産として、申告が必要になりますね。鑑定に回しますが、よろしいですか?」
Aさん「え? これも相続財産にあたるんですか? こんなの、ただの形見分けじゃないですか!」
Aさんの抵抗も虚しく、鑑定の結果高級腕時計コレクションは「時価4,500万円」との評価を受けました。この結果、Aさんは「1,500万円」もの追徴税を課されることになります。
Aさん「尊敬する父の趣味を褒めてくれたから正直に話したのに……悪いけど、あなたたちを恨みます……」
Aさんが税務調査の対象となったワケ
Aさんの父は長年、その地域のなかでは有数の工務店を経営していました。自営業ですから、毎年欠かさず確定申告も行っています。
こうした情報から、Aさんの所得についておおむね把握している税務署は、過去の所得状況から鑑みて相続財産が少ないのではないか? との疑いをもち、Aさんの父を税務調査の対象に選んだのだと考えられます。
また、相続税の申告の場合、中身が複雑であるため約85%の申告者がプロである税理士に依頼しています。税理士を頼まずに自己申告した場合、税務署に疑われやすい(調査対象に選ばれやすい)といえるでしょう。
