訴訟へ
誠さんと俊夫さんとの間だけではなく、俊夫さんと雅人さんとの間でも喧嘩になってしまったため、三者間でこれ以上話し合いで解決することはできない状態になりました。
そこで、誠さんは、弁護士に依頼して、自宅の土地建物の所有権が自分にあること、土地建物の登記を自分に移転させるために、俊夫さんと雅人さんに対して、訴訟を提起しました。
訴訟のなかで、「自宅土地は誠が守ってください」の意味合いが、誠さんに所有権を譲るという内容であるか、争われました。
裁判所は、各当事者の主張立証を聞いたあと、誠さんに対して、同遺言書の文言から、当然に自宅土地建物を誠さんが取得する、という意味であるかは明確ではないという心証を伝えました。そして、3人に対して、法定相続分にしたがって3分の1ずつ取得するという内容の和解をすすめました。
誠さんは、最終的に自宅を含めたすべての財産を俊夫さんと雅人さんに取得されてしまうリスクを考えて、法定相続分で分けるという方針に応じることにしました。
一方、俊夫さんと雅人さんも、仮に勝訴したとしても、誠さんから遺言書が全体的に無効であるという訴訟を提起される可能性や、俊夫さん・雅人さんの間でさらなる係争が残ってしまうことを避けたいという気持ちから法定相続分で分けるという方針に応じることにしました。
その後、誠さんは、自宅に居住することを希望しましたが、俊夫さんと雅人さん側から提示された代償金の金額は、到底支払える金額ではありませんでした。
誠さんも、知り合いの不動産業者に相談しましたが、俊夫さんと雅人さんが提示してきた代償金の金額はやや高いが、不動産の評価額を低く見積もっても、代償金を支払うことが困難であることがわかりました。
その結果、誠さんは不動産を取得することを断念して、3人で不動産を売却して、預貯金を含めて三者間で3分の1ずつ取得しました。
遺産分割が完了した時点で、誠さん、俊夫さん、雅人さんの3人の絆は完全に壊れてしまっていました。
弁護士からのアドバイス
康夫さんは、誠さん、俊夫さん、雅人さんの3人が喧嘩をしてほしくないがために遺言書を作成したにもかかわらず、かえって争いの火種になってしまいました。
「土地は誠が守る」という文言は、一見すると所有権を移転させることを望む文言にも見えますが、ほかの遺言の文言によっては、不明確な文言と判断されることがあります。実際に、東京地裁令和3年5月20日の裁判例では、「私の所有全財産は姪のXに与えます」「土地はYが守る」との記載があった遺言書について、「守るとの文言の意味するところは明らかではなく、Yに土地の所有権を与えるとの意味であるとはいえない」、と判断されました。
では、康夫さんはどのような遺言書を残せば良かったのでしょうか。
仮に康夫さんの遺志が、自宅の土地建物は誠さんに相続させ、俊夫さんと雅人さんには土地建物以外の財産を2分の1ずつ残したいというものだとすると、以下の内容を記載する必要があります。
1. 遺言者は、遺言者の有する下記不動産を、遺言者の長男誠(昭和〇年〇月□日)に相続させる。
記
1土地~
2建物~
以上
2. 遺言者は、前条に記載した財産以外の一切の財産を次男俊夫(昭和〇年〇月□日)及び三男雅人(昭和〇年〇月□日)に各2分の1の割合により相続させる。
上記のように、遺言書は、「平等」「守る」などのいろいろな解釈ができる文言ではなく、「相続させる」「2分の1」とできるだけほかに解釈することができない文言を使用する必要性があります。
実際の遺言書を作成する際は、上記文言以外にも、祭祀承継や遺言執行者についても規定したほうが相続人間のトラブルを避け、想いを相続人に引き継ぐことができます。
より正確な遺言書の作成を検討する際は、弁護士等の専門家のサポートを得ることが、ご自身の意向が反映された遺言書の作成につながります。
三浦 裕和
弁護士
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