個人投資家のうち60歳以上が占める比率、株主数では49.5%
シニア世代の株式投資家は多いといわれています。実際、2024年3月時点で、個人投資家のなかで60歳以上が占める比率は株主数では49.5%であり、時価総額では69.1%になるという報告があります(佐久間啓「2024年3月末の個人株主数は前年差+36.2万人の1,525.9万人」第一生命経済研究所、2024年)。
一方で、企業間の業績の格差は、経済成長率が高いときは小さく、経済成長率が低いときには大きくなる傾向があるとする分析があります(川北英隆『京都大学人気講義の教授が教える 個別株の教科書』ディスカヴァー・トゥエンティーワン、2024年)。高度経済成長時代ならともかく、個人投資家にとって現在の低成長時代の企業分析は簡単ではありません。低成長の時代は、企業社会も格差が拡大するといえます。
証券市場は長期的には価格情報の処理が正確で適切な価格がついているとする「効率的市場仮説」が成立する場合のほうが多く、インデックス運用のほうがアクティブ運用より運用成績がよいのが実情ですので、個別株式の銘柄選びは簡単ではないでしょう。
個別株投資に必要な「3つのゆとり」…クリアできるシニアは?
個別株式への投資を行う場合、よくいわれるのは、3つのゆとりとして、①資金のゆとり、②時間のゆとり、③心のゆとりを持つこととされますが、これを具体的に考えてみます。
①資金のゆとり
個別の株式投資を中長期的に行い、自ら複数銘柄の株式に分散投資を行ってゆく場合のリスク(標準偏差)を考えてみます。東証プライム市場の大型株の場合、個別株のリスク(標準偏差)は30%~35%程度といわれています。しかし、銘柄数を20銘柄程度に分散すれば、日経平均株価や東証株価指数と同じ程度の23%程度(公的年金の資産運用のデータによる)まで小さくすることができるとされています。
20銘柄を保有する場合、先述のように日経平均株価のようなインデックスのリスクの2倍(2標準偏差)程度と考えられるので、これから確率約97%でこれ以上の値下がりはないだろうという値下がり幅は、年間46%(23%×2)程度との試算が可能です。
また、個人株主の株式保有額は「100~300万円未満」の割合が18.9%と最も多く、「500万円未満」が66.6%を占め、平均保有額(推計値)は900万円であるとする調査結果があります(日本証券業協会「個人投資家の証券投資に関する意識調査(調査結果概要)2024年)。
すると、この平均保有額の900万円を前提にすると、リーマンショック級の経済事件の場合、年間最大損失額410万円程度との試算ができます。これだけの資金的なゆとりは、平均的なシニア世代の方々では多くはないと思われます。
さらに、先述の調査では、実際の1人あたりの保有銘柄数は5.7社程度とされているので、分散投資の効果は小さいと考えられ、個別株式に取り組めるシニアの方の割合はさらに小さくなります。
②時間のゆとり
先述の意識調査では、株式投資の投資期間について、70歳以上の方では10年以上保有している方の割合が33.6%(全世代平均27.4%)であり、5年以上が54.9%(全世代平均44.8%)となっています。シニア世代の個人投資家は時間のゆとりについては、約3割の方々はおおむね問題ないと考えられるでしょう。
③心のゆとり
60代で株式に投資を行い、4割以上の損失に耐えることのできる人の割合は11.3%であるという調査があります(投資信託協会「2023年度投資に関するWEB調査」2024年)。そうすると、心のゆとりの観点からは、個別株式の投資に取り組める方はシニア世代の約1割程度といえるかもしれません。
こうして3つのゆとりを具体的に考え、やはり、一般のシニア世代の方々は株式への投資は運用資産の一部(サテライト)とし、分散投資によりシステム的にリスクを小さくできる投資信託の活用を主(コア)とする「コア・サテライト戦略」のような堅実な資産運用をお勧めします。
藤波 大三郎
中央大学商学部 兼任講師
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