売り手オーナー経営者が持つべき「意思決定の判断軸」
後悔のない事業売却を実現するためには、まず意思決定をするうえでの明確な判断軸を持っておくことが大切です。明確な判断軸を持っていなければ、M&A業者や買い手の打診に応じる形で納得感のないまま事業売却を進めることになりかねません。
ここからは、「どのようにM&Aで実現する目標を設定するのか」「どのように現状を分析し、M&A戦略を立案していくのか」といったポイントについて解説し、事業売却を進める際に必要な判断軸を確立するうえでの指針を提供します。今回は「目標を設定する」ことについてみていきましょう。
目標を設定する
M&Aはあくまでも手段のひとつです。手段は目標を達成するためのものですから、目標が曖昧であればM&Aをどのように活用するべきかが定まりません。M&Aという手段の活用方法は目標から論理的に導かれるべきものであるべき一方で、目標自体は必ずしも論理的に決まるものではありません。
事業売却の目標はオーナー経営者それぞれの想いを反映したものになるでしょう。例えば、65歳までにリタイアしたい、会社を10億円で譲渡したい、さらに事業を成長させたい、会社を上場させたい、といった希望です。
事業オーナーとして事業売却を検討する場合、まずは自身の想いに耳を傾け、こうした目標を立てるところからスタートしてみるとよいでしょう。目標を設定することで、目標までの道筋を立てることができ、現状分析を行うことで目標までの距離(時間)を測ることができます。具体的にM&A戦略を検討するなかで、当初の目標が現実的でないことが判明するケースもあると思いますが、そのときは目標を見直せばよいのです。
なお、M&Aは目標を達成するための手段のみならず、目標に近づけるためにも活用することができます。M&A実施後には株式は一切持つことができない、まったく経営に関与できないと思っているオーナー経営者もいますが、株式の一部を持ち続けることが可能なケースもありますし、引き続き経営陣の一員として会社経営に関与していくケースもあります。買い手次第では、こうした設計を柔軟に行うことが可能で、M&Aの活用方法の幅も広がります。
投資ファンドと組んで上場を実現したケース
最近では、上場することを目的として、オーナー経営者が一部の持分を投資ファンドへ譲渡するケースが増えています。
図表の事例はいずれも、現在もオーナーが株主として上場会社の株式を保有しています。ファンドは上場後に株式を売却していきますから、オーナーが筆頭株主として会社を率いていくといったことも可能です。
上場を実現したいと考えるオーナー経営者も一定数いますが、自社単独ではガバナンスの整備などの上場に向けた準備が難しいと感じることも多いのではないでしょうか。あるいは、自社単独で更なる事業成長を遂げていくことにハードルを感じることも多いでしょう。投資ファンドは、こうした課題を解消してくれる点で、オーナー経営者のよいパートナーとなる場合があります。
2000年代まではハゲタカといわれる外資系投資ファンドや敵対的買収がメディアを賑わせた背景もあって、多くの経営者にとってM&Aや投資ファンドはネガティブな印象でした。しかし、最近ではまっとうな経営を行う国内ファンドも増え、国もそうした投資ファンドに対し、外部投資家(LP)として積極的に出資を行っています。
理想のM&Aを目指すための事前準備・対策として、次回は「自社の状況を知る」についてみていきましょう。
作田 隆吉
オーナーズ株式会社 代表取締役社長
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