自社の状況を知る
理想のM&Aを目指すための事前準備・対策として、前回はM&Aの目標を設定することを紹介しました。目標設定ができたら、次は自社の状況を把握することです。
目標を念頭に自社の事業分析を行うことで、いつ、誰と、どのような手法で、どの程度の価格を目指してM&Aを行っていくべきかといった具体的なM&A戦略を描くことが可能になります。
事業分析においては、例えば次のような項目をカバーします。
-売上、利益指標、キャッシュ・フロー
-バランスシートの状況(資本政策、運転資本、設備投資の状況など)
-KPI(重要な業績評価指標)
-強み(含む差別化ポイント)・弱み
-市場環境、成長余地
-会社が抱える課題
買い手企業は一般的にキャッシュ・フローを重視して投資検討を行います。良い条件で事業売却を実現するためには、事業からしっかりキャッシュ・フローが生み出せているかがポイントになります。売上、利益指標の推移分析を行うことで、対象事業の将来性を評価しておくことも重要です。
譲渡のタイミング
買い手の立場からは当然、将来性を期待できる事業ほど魅力的に映ります。したがって、良い条件での売却を考えた場合には、譲渡のタイミングは増収・増益、右肩上がりの業績のときが理想的といえます。
オーナー経営者としては、業績が好調で今後も事業成長が期待できる状況においては、「まだまだやれる」と事業売却を先延ばしにするケースも多いのではないでしょうか。しかし、タイミングを逃して減収減益局面に入ってしまうと良い条件での売却が難しくなり、買い手が見つからないリスクも高まります。
譲渡タイミングの判断にあたっては、業界の状況や対象会社の業界におけるポジショニングなどに基づく今後の業績見通しを踏まえて、先手を打つ意識が重要です。「苦しくなってから売却する」のではなく、「買い手から魅力的に映るときに売却する」ことが事業売却を成功させるポイントになります。
売却時期はなかなか判断しづらいものです。しかし、このあとお話しする株式評価額を把握し、現在地を知ることができたら、どの程度の業績を達成すればどの程度の株価が期待できるのかといった相場感を持つことができるはずです。それに基づき、「このくらいの業績が達成できたら売却に動こう」、と売却までに達成したい業績目標を立てることも、納得のいく意思決定に繋がるでしょう。
売り手に寄り添うFAであれば、拙速に売却を促すのではなく、オーナー経営者の想いに寄り添って適切な譲渡タイミングについて提案・助言してくれるはずです。
希望価格に届いているか(現在地を知る)
自社の現状分析にあたっては、いま会社を売却するとしたらどの程度の価格が期待できるのか、すなわち株式評価額を把握しておくことが重要です。M&Aは買い手企業との取引ですから、株価算定にあたっても、買い手が行う手法で株価算定を行いましょう。重ねて述べますが、仲介サービスで使われている年倍法は、一般的に買い手が意思決定に用いる株価算定手法ではないため、おすすめできません。
買い手が採用する株式評価のベースとなる事業価値の評価手法には、ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法などもありますが、希望価格に届いているか把握する目的においては、簡便に事業価値を試算することが可能なマルチプル法(類似企業比較法)が使い勝手のよいところです。
株式評価手法の詳細については、過去記事『うちの会社、いくらで売却できる?オーナー経営者が「好条件」でM&Aするための“株式評価手法”【専門家が解説】』をご覧ください。
足元の業績を正しく把握していくことで、その時々の株式評価額をタイムリーに算出することができます。より良い条件で売却するためにまずは業績改善に取り組みたいといった場合においては、業績改善の施策と並行して定期的に株式評価額を把握しておくことで、目標価格に向けた進捗を把握することが可能となります。
作田 隆吉
オーナーズ株式会社 代表取締役社長
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