トランプ次期大統領、国連気候変動枠組み条約「パリ協定」から離脱か…デジタル課税の多国間条約が発効できない可能性も、10年かけた議論が水の泡?

トランプ次期大統領、国連気候変動枠組み条約「パリ協定」から離脱か…デジタル課税の多国間条約が発効できない可能性も、10年かけた議論が水の泡?
(※写真はイメージです/PIXTA)

トランプ次期大統領の就任によって、アメリカが地球温暖化の原因となる温室効果ガスの規制を目的とした国連気候変動枠組み条約のパリ協定から離脱するという報道が出ています。このパリ協定の離脱は、これまで10年かけてきたデジタル課税の多国間条約にも影響することが指摘されています。国際税務の専門家が解説します。

国連気候変動枠組み条約のパリ協定から離脱か?

トランプ次期大統領は、国連が地球温暖化の原因になる温室効果ガスの規制を目的とした国連気候変動枠組み条約のパリ協定を離脱するのではないかという報道が出ています。

 

パリ協定とは、2015年の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択され、2016年に発効した気候変動問題に関する国際的な枠組みのことです。この協定は強制力があることから、トランプ氏は前回の大統領時代にパリ協定の離脱を表明しました。そしてバイデン政権に代わり、一転して参加することになったのです。

 

パリ協定の離脱はほかの分野での影響が心配されます。特に国際課税に関しては懸念されるところです。

 

OECDは約10年間かけて大手IT企業の収益を得ている市場国で租税回避をしていることから、これを規制するためにデジタル課税として多国間条約(MLC)を作成して、国際的なルールとする予定でした。

 

MLCの発効については、当初から米国議会での承認が難しいという見方がありました。そこに米国第一主義の次期大統領が就任することで、パリ協定を離脱するのであれば、MLCは発効できないのではないかという予測が出てきました。

国連国際租税協力枠組み条約の出現

2024年に国連国際租税協力枠組み条約(以下「UNFCC」)の作成がスタートしました。この条約にはアフリカなどの国から、「MLCにはわれわれの意見が反映されていない」という意見があったことに加え、計算過程が複雑すぎるという批判がありました。

 

大手IT企業が市場国であるEUなどにおいて、収益に見合う税負担をしていないとの批判を受けて、市場国がデジタルサービス税(DST)という間接税を賦課することになりました。この大手IT企業のほとんどがアメリカの企業です。大手IT企業としては、DSTの課税よりもMLCに基づいて納税をしたほうが有利という判断があったものと思います。

 

他方、市場国としても、税収が増加する話ですので、双方で妥協したわけです。

 

しかし、OECDで理論形成に意見が反映されなかった国から反対があり、国連はUNFCCを作成することになりました。UNFCCは上記の気候変動枠組み条約を模範とするものです。

 

しかもUNFCCの完成は2027年ですので、トランプ次期大統領の任期中です。UNFCCは、加盟国会議(COP)で強制力のある規制をすることになるでしょう。米国は、パリ協定と同様に離脱することも考えられます。

トランプ大統領の就任で大混乱か?

OECDのMLCについて発効に悲観的な意見が増えてきました。しかしこの悲観論者は、UNFCCの出現で新しい国際課税の秩序ができるのではという予測をする者もいます。UNFCCの適用も難しいともいえるのです。

 

UNFCCの完成は2027年予定ですので、発効およびCOPはトランプ次期大統領の次の大統領の判断ということになります。仮にトランプ次期大統領がUNFCCの不参加を表明しても、2028年以降はどうなるのか予測できません。

 

焦点となるのは、2025年から2028年頃までの大手IT企業の課税問題です。市場国がDSTを課税し、米国がDST市場国の製品等の関税を引き上げて対抗することも予測されます。

 

UNFCCスタートの前の2023年11月に開催されたナイジェリア案「国連における包括的・効果的な国際租税協力の促進」の採決では、賛成125、反対48で日本は反対しています。

 

この状況から、UNFCCは国連モデル租税条約のように、途上国に有利な規定を含むことも考えられます。

 

では、日本はどうなるのでしょうか。日本はOECDに深く関与していたことから、UNFCC支持は難しいと思いますが、MLCが発効しない場合、DSTを導入するのか、UNFCCとの距離をどうするのかという難問に直面します。当分、この問題の推移を見守ることになりそうです。

 

 

矢内一好

国際課税研究所首席研究員

 

 

 

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