「相続に詳しい税理士」は少数派!?
開業医が早めに相続対策を講じようとしても、それを的確に支援できる専門家は、実はほとんどいません。
個人資産にかかる相続税対策に加えて、特殊な医療法人の承継問題の対策を、同時に行われなければならないからです。おそらく多くの開業医の方が顧問税理士に日常的な税務を委託していると思いますが、相続税と医療法人の両方に精通した税理士は稀でしょう。
まず、「相続に詳しい税理士」自体が少数派です。なぜなら相続案件を経験する機会が少ないからです。日本にいる税理士の数は、相続税の年間対象件数の約1.5倍ですから、単純計算しても、年に1回も相続を扱わない税理士が出てきます。
しかも、相続案件は相続を手がけた実績のある税理士のところに依頼が集まるため、相続税対策に詳しい税理士はより詳しくなっていく一方で、相続に不慣れな税理士は相続の分野も開拓しようと思ってもなかなか実践のチャンスに恵まれない、という偏りが生じます。
これは決して税理士の怠慢というわけではなく、税理士にも得意分野と不得意分野があるということなのです。そのことを知らずに、「ずっと付き合いがある税理士だから」とか「知り合いの税理士だから」とか「安い報酬で引き受けてくれるから」などの理由で安易に税理士を選んでしまうと、相続税対策に不慣れな税理士に相続を任せることになりかねません。
すると、相続税額を大きく減らせる特例があるのに、それを使い損ねたり、的外れな節税をしてみたり、あるいは遺族間でトラブルを招くようなマズい遺産分割の仕方になったり……といった失敗をして後悔する羽目に陥ることもあるのです。
「相続対策」では個人資産を把握する必要があるが・・・
相続に詳しい税理士の中でも、さらに「開業医の相続に詳しい税理士」となると、非常に少ないということは想像に難くありません。少数派の税理士の中のさらに少数派ですから、開業医が安心して相続を任せられる税理士がいかに希少な存在かが分かるでしょう。
そもそも、所得税・法人税を手がける多くの顧問税理士は、皆さんの個人資産についてはしっかりと把握していません。もちろん、確定申告などのために、所有不動産やそこからの所得について把握している税理士もいます。しかし預貯金の額までは知る機会がありませんし、私が仕事で関わっていた税理士の中には、所得税や法人税の申告に関わらない不動産などについてはまったく知らないという人も少なくありませんでした。
知る必要のないことには関心がないというスタンスの税理士もいれば、プライベートな部分にまで立ち入るのはマナー違反と考えて、あえて知ることを控えている税理士もいるでしょう。どちらにしても多くの顧問税理士は、皆さんからの相談や働きかけがないうちは、基本的に個人資産を知ろうとはしないはずです。
個人資産を把握していなければ、相続対策の提案などもできるわけがありません。皆さんのほうにも、守秘義務があるとはいえ、顧問税理士に自分の個人的な資産のことは話しにくいという想いがあるのではないでしょうか。特に地方になればなるほど、人間関係が濃密ですから、いい情報も悪い情報もどこから漏れるかは読めず、結果的に周囲のみんなに知られてしまうということも少なくないでしょう。
「どこそこの息子さんは○○大学に進学したらしい」とか「あっちのお宅は新しくマンションを買おうと考えているらしい」とか、時にびっくりするような個人情報が当然のごとく近所に知れ渡っている場合があったりします。そういった懸念から、「地元では相談しにくい」といって、東京の渋谷にある私の事務所まで、はるばる来られる方も少なくありません。