遺言書は、「争続」を防ぐキーアイテムとして忘れてはいけない存在です。今回は、「自筆証書遺言」のメリット・デメリットを見ていきます。

「争族」防止の簡単からも見逃せない「遺言書の力」

今回は、相続における基本のキである「遺言書」について説明します。遺言書は一般の相続でも有効なものですが、揉め事の起こりやすい開業医の相続では特に重要です。「たかが遺言書」と思うかもしれませんが、その効力は決して小さなものではありません。

 

遺言書は故人が遺族に自分の意思を伝える最後の手段です。逆にいえば、遺言書は相続人が故人の意思を汲み取るための大切な手がかりです。

 

「お父さんはどういう意図で、こういう遺産分割にしたのかな」「僕たちに何をしてほしくて、この資産を残したんだろう」など、もはや聞くことの叶わない故人の声を、遺族は遺言書から必死に読み取ろうとします。今は亡き被相続人とこれからを生きていく相続人の橋渡しをするのが遺言書なのです。

 

実際、遺言書があったことで、争うのを思いとどまった遺族がたくさんいます。たとえば、遺言書や付言事項から「家族仲よく」という故人のメッセージを受け取って、「ケンカしているとお父さんがあの世で悲しむ」と冷静になり、お互いの妥協点を話し合えるようになった家族がいました。「私が築いた病院を守って」という親の願いを受け取って、地元に戻って病院を継ぐ決意を固めた子がいました。

 

遺言書があったからといって、揉め事が100%避けられるわけではありませんが、遺言書のない相続より、遺言書のある相続のほうがはるかに争い事は少なくできます。

 

また、「愛人にすべての財産を譲る」など遺留分をまったく無視した内容や遺族の感情を逆なでするような内容でない限り、基本的には亡くなった人の意思が尊重されることが多くなります。ですから、遺言書は書いておくに越したことはないのです。

手軽さが大きなメリットとなる「自筆証書遺言

では、争族を避けるためには、どんな遺言書にすればいいかについて説明します。まず、遺言書には3つの種類があります。

 

●自筆証書遺言

●公正証書遺言

●秘密証書遺言

 

それぞれの違いについて、重要なポイントだけ簡単にまとめておきましょう。それぞれにメリットとデメリットがあるので、よく考えて作成してください。なお、お勧めしたいのは2つめの「公正証書遺言」です。

 

<自筆証書遺言について>

 

自筆証書遺言は、遺言者が自筆で作成する遺言書です。

 

主な作成のルールとしては、「全文が遺言者の自筆であり、遺言者本人が署名押印すること」「訂正箇所には署名押印の際に使用した印鑑を使用する(塗り潰しや修正液を使うのは無効)」「遺言書が複数存在する場合、日付が最も新しい遺言書が優先される」などがあります。

 

メリットとしては、次のようなものがあります。

 

●思い立ったときにその場でつくれる

●何度でも内容を書き直しできる

●作成の費用がかからない

●証人の必要がない

●自分の好きなように内容を決められる、など

 

デメリットとしては、次のようなものがあります。

 

●一か所でも不備があると法的効力を発揮できない可能性がある

●本人の自筆であることを家庭裁判所で検認してもらわなくてはならない

●遺言書の存在を遺族に気づかれずに終わってしまう危険がある

●偽造・改ざん・隠匿・破棄などのリスクがある

●作成時に遺言能力があったかどうか、相続人で争う可能性がある、など

 

次回は、「公正証書遺言」「秘密証書遺言」について説明します。

本連載は、2014年11月29日刊行の書籍『開業医の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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