前回は、ほとんどの税理士が「開業医の相続」に対応できない理由について説明しました。今回は、「多額のキャッシュ」の存在が課題となる開業医の相続税対策について解説します。

開業医の「相続に対する危機感」は一般の資産家以下!?

開業医の相続ならではの問題として、「開業医は個人資産が多大になりやすい」ことがあると述べました。個人資産の中でも、特に現預金の占める割合が高い傾向にあるようですが、それがなぜ相続時に問題となるのか、もう少し具体的に見ていきましょう。

 

一般的に、医師という職業は、他の職業に比べて高収入です。また、開業医の場合は自分で引退時期を決められますから、定年のある会社員より長い期間にわたって収入を得ることが可能です。そのため長く開業医を続けていればいるほど、ますますキャッシュリッチになっていくのです。

 

また、医師の家庭は代々資産家が多く、親も同様に医師であるケースも多くあります。今も昔も、医学部に入るには高額な学費が必要です。必然的に裕福な家庭の子が医師になる確率が高くなります。世間的に、親子で医師とか、先祖代々医師の家系だという家が多いのもそのためでしょう。

 

そして、親が所有する資産は、やがて相続で子や孫へと引き継がれますから、資産家の子や孫は資産家になりやすいのです。また、医師は医師同士で結婚したり、看護師など医療従事者と結婚したりする人が多い傾向もあります。すると、夫と妻の双方の親からまとまった額の財産を相続することになり、おのずと一家の資産が増えていきます。

 

収入や資産が多い一方で、開業医には「投資」や「資産運用」「節税」などへの関心や意識が低い人が多くいます。私の事務所に相談に来られる開業医の方々のお話を聞いていても、「収入は銀行口座にただ貯まっていくだけ」という人がたくさんいます。

 

また、「自分がどれくらいの資産を持っているか正確には分からない」という人がほとんどです。そして、決まって「自分が死んだら相続税がかかるのだろうと思うが、特に相談も対策もしていない」とおっしゃいます。一般的な資産家よりも相続対策の必要性が高いのに、相続に対する危機感は一般的な資産家以下なのです。

遺族にとっては非常に不利な「現金の相続」

多額のキャッシュを遺して亡くなることは、相続する遺族にとっては非常に不利であり、もったいないことです。まず、相続税の計算をする際、故人の財産はすべて金額に換算されます。不動産も株式も貴金属も「金銭的な価値として、いくらか」「売買するとしたら、いくらか」を見るのです。これを「相続財産評価額(あるいは、単に評価額)」といいます。

 

現金や預貯金の評価額は、その額面どおりになります。現金3億円であれば、その評価額は3億円です。たとえば、相続税が最高税率の55%(2015年1月からの新税制下)かかる人の場合、3億円の現金にかかる相続税額は1億6500万円です。いくら資産家であっても、これはかなり大きな金額に感じられるでしょう。

 

現金を相続すれば、その税額はどうであれ納税することは可能ではないか、と思われるかもしれません。しかし、ほとんどの開業医の場合、相続財産は現金に限らず不動産や医療法人の出資持分も含まれますから、それらに対する全体の相続税を支払うために遺族が苦労することになります。

 

もしかすると不動産を売却しなければならなくなったり、出資持分を払い戻すことになって医療法人の運転資金に悪影響が出たりするかもしれません。多額のキャッシュは、開業医の相続においては早めに相続税対策を講じておかなければならない資産なのです。

 

適切な対策を講じておけば、相続税額は大幅に減らすことができます。詳しくは後述しますが、たとえば現金を不動産に換えておくだけでも、6〜7割程度は評価を圧縮することが可能です。

本連載は、2014年11月29日刊行の書籍『開業医の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

開業医の相続対策

開業医の相続対策

藤城 健作

幻冬舎メディアコンサルティング

開業医が保有する多額のキャッシュは、不動産に換えるだけで6~7割も相続税を圧縮できます。 本書では、さらに効果を高めるために、収益性と節税効果に優れた不動産を活用するノウハウや、MS法人を絡めた仕組みづくりなどを解…

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