慣例に倣わず新たな医師像を構築
当時はその意味を瞬時に理解することができませんでしたが、「何時何分、死亡しました」という最期を迎えたときの台詞を「あんたが言ってくれるんだよね」という思いだったのではないかと解釈しました。
「わかりました。任せてください」と精一杯に答えました。とても勇気が要りましたが、それでも何とか答えたのを記憶しています。こうした経験が私を鍛え、訪問診療医にしてくれたのです。
かつての医師像とは大変な乖離があります。もしも患者さんに「引導を渡してくれ」と言われたなら「またまた、そんな縁起でもないことを」「まだまだ大丈夫ですよ」と慰めるのが正しい対応でした。こうした局面で、慣例に倣わず「わかりました」と言えた経験が私を大きく変えたのです。
数多くの患者を看取るには自分の人生観を育むことが必要
終末期に退院を選択する患者さんのほとんどが「自分の好きなように最期を迎えたい」と考えています。望んでいる最期を迎えられるようサポートするのが真の在宅医療です。それには医師がいかに婉曲的ではなくダイレクトに心を伝えるか、患者さんとどのように信頼関係を築くか、という点が重要です。
これから在宅医療に参入する先生方は、人が亡くなる場面に数えきれないほど直面します。悲しい経験をたくさんしていくでしょう。多くの患者さんを看取るには自分の人生観を育てていく必要があります。辛く寂しい経験を積んでいく仕事ですが、一方で「人の生死に深く関わることができる」のが在宅医療のやりがいの1つでもあるかと思います。
野末 睦
医師、医療法人 あい友会 理事長
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