(画像はイメージです/PIXTA)

在宅医療は病院や施設で提供される医療と大きく異なります。家庭生活を営む空間に他人があがり込み、介入するわけですから、患者本人のみならず家族とのコミュニケーションは大切です。しかし、患者さんよりもご家族を優先しては本末転倒です。在宅医療医の野末睦氏が自身の体験をもとに、終末期医療の現場について解説します。

患者の「今ここで死にたい」という言葉にどう対応すべきか

ある日、担当患者(95歳)の体調が悪化。検査入院したところ「これ以上の治療は困難」という結論に至ります。患者とその娘さんは「できる限りのことをして、それでも難しいなら…」と今から最期を迎えることを覚悟しました

 

ところが、その姿に疑問を抱いたお孫さんは「本当にそれでいいの? お母さん後悔するんじゃない? 救急車で治療してもらえる病院に運ぼうよ」と強く主張したのです。しきりに訴えかけられたときのことについて「あのときは心が揺らいだ」と、後に語っています。

 

こうした局面において、家族に対して説得したり、諭したり、提言したりして収拾を図る医師もいます。私は本人に向かって「あなたはどうしたい?」と問いかけます。すると「私はもう十分生きた。だから今、ここで死にたい」という答えが返ってきたのです。患者さん自身が覚悟しているのであれば、私がご家族の意向に従うことは決してありません。

 

「今ここで死にたい」という言葉に対して、「はい、わかりました」と答えるのはとても勇気が要ることです。このような経験の積み重ねが「私を鍛えてくれた」と思っています。

「先生が引導を渡してくれるんだよね」…医師の意外な答えは

もう1つ、私が訪問診療の場面で経験した患者さんからの印象的な言葉を紹介しましょう。

 

まだ私が一人で訪問診療をしていた時代――とある患者さんの病状が急速に悪化しました。本人も「もってもあと1日か2日…」と感じたのか「今日は金曜日かな?」と聞かれました。土日は休診日だったため「明日から週末ですが、何かあったらいつでも呼んでくださいね」とお声がけしました。診療の帰り際、不意に「先生、先生が引導を渡してくれるんだよね」とその患者さんから投げかけられたのです。

 

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