井戸端会議と雑談を大事に
創業者である母も「職員が“ポロリ”できる環境を作らないといけない。それがお前の経営者としての役割だ」とよく言っていました。
「ポロリ」とは、職員が弱音や悩み、何げない本音を気軽に吐きだせる、という意味です。
そんな「ポロリ」を引き出し、職員が雑談しやすい雰囲気づくりのため、かなりやではさまざまな取り組みを行っています。その一つが、職員間の「お茶の時間」です。コーヒーやちょっとしたお菓子をつまみながら、職員同士がざっくばらんに話をするのです。
もちろん私も参加して、たわいもない話をすることがよくあります。そこでは仕事に全然関係のないプライベートの話もしますし、
「どうしてそんなに上手に身体介護ができるの?」
「利用者の〇〇さんからこんなことを言われて困ったんだけど、どうすればいいの?」
「オムツ替えがどうしても苦手なんだけど、どうすれば上手にできるの?」
「調理が苦手なんだけれど、どうすれば効率的に品数を増やせるの?」
といった些細なことまでざっくばらんに会話が交わされます。おそらく本人たちは、報告や相談をしているという感覚すらないと思いますが、そういったことを気軽に相談できる環境を整えることで、自然に課題を解決していっているのだと思います。
特に若い職員だと「人に相談するのが苦手」という人も多くいます。ただちょっとしたことが聞けないだけで、利用者の情報が得られず上手に対応ができなかったり、モノの場所がわからずにまごついてしまったりすることで、ミスを生み、利用者からのクレームにつながってしまうこともあります。
そういった小さなクレームが、巡り巡って重大事故につながってしまう危険性もあります。雑談しやすい環境は、職員にとっても、利用者にとっても、非常に重要な要素だと考えています。
母はよく、「井戸端会議と雑談を大事にできなくなったら経営者として失格だ。井戸端会議って、会議とつくくらいだからとても大切なものなんだよ。得られるものがたくさんあるからね」と言っていました。
私はただおしゃべりが好きなので苦もなく実現できましたが、今になってその大切さを改めて感じています。「お茶の時間」は、最初は母が小さなデイサービスから創業した頃、仕事が終わった後に職員と「小腹すいちゃったね、何か食べようか」とコンビニで何かを買ってきて一緒に食べながら雑談をしていたところから始まったように思います。
そこで「実は結婚しようと思うんだけど、決め手がなくて……」「実は離婚したいのだけれど……」といった、プライベートの相談に乗ることもありました。どんなに忙しくても、従業員と話す時間は必ず意識して作るようにしています。
本当は従業員と話しているばかりではなく、経営者としての仕事を進めなければならないのかもしれないですが、私は何より従業員と利用者に時間をいちばん使いたいと思っています。
大病院などが後押ししているような施設ではなく、個人経営の小さな施設だからこそ、好きなように自由にやれているのかもしれません。
久野 佳子
デイ・サービス かなりや
代表取締役