いい加減大人になれよ…若い世代からも強まる氷河期世代へのバッシング。ロスジェネ世代の〈最大の不幸〉とは?

いい加減大人になれよ…若い世代からも強まる氷河期世代へのバッシング。ロスジェネ世代の〈最大の不幸〉とは?
(※写真はイメージです/PIXTA)

1970年から1982年前後に生まれ、1990年代後半から2000年代にかけて高校や大学を卒業して就職を迎えた「就職氷河期世代」あるいは「ロスジェネ世代」。彼らはバブル崩壊後の「時代の不遇」を一身に受けてきました。最近では、社会的支援や救済を求める彼らに対して「いつまでも要求ばかり」「いい加減大人になれ」と言った批判が社会のあちこちからあがり始めています。本記事では、御田寺圭氏の著書『フォールン・ブリッジ』(徳間書店)より一部抜粋・再編集し、就職氷河期世代について、解説します。

年を取れば自動的に大人になれる──わけではなかった

思うに、かれら就職氷河期世代には、これまでの世代のように「大人」になるための〝通過点〟を、社会が十分に用意してくれなかったのだろう。

 

たとえば働き口だ。1990年代に突如として就職氷河期がやってくるその直前まで、だれもが正社員で働き口を見つけられると素朴に信じられるくらいの社会的状況が整っていた。だがご存じのとおり、かれらは社会人として世に出る目前にしてその梯子を外された。幸運にも正社員の働き口にありつけた者もいたが、しかしそうした雇用のイスが用意されず、非正規やフリーターで食いつなぐことを余儀なくされた人も少なくはなかった。

 

日本の企業社会における「会社組織のメンバーとして年功序列的にステップアップし、30代や40代でそれなりに責任のあるリーダー的な立場を任される」──というロールモデルを得るには、やはり正社員であることが前提となっている。そしてこの「責任ある立場」というロールモデルこそが、ある人を世間でいうところの「大人」として成長させていた。逆にいえば、正社員としてキャリアを積み上げて「責任ある立場」を得るチャンスが十分に提供されなかったことで、かれら就職氷河期世代は「大人」になる機会を逃してしまった。

 

さらにいえば、その後も数十年間にわたって景気は回復することがなかったせいで氷河期以前の水準まで採用枠が持ち直すこともなかったばかりか、かれらの後進世代からは急速に少子化が始まっていた。その結果として、苛烈な就職難をなんとかかいくぐって企業に正社員として雇われた人でさえも、なかなか「自分を慕う後輩」がやってこなかったのだ。何年働いても、自分がいつまでも「フレッシュな若手」として扱われる日々が、それこそ30代半ば、場合によっては40代に入っても続いていた。

 

つまりかれらは、そもそも正社員の雇用のパイが絶対的に乏しくなったせいで「責任ある立場」に進める門戸が狭かったばかりか、運よく正社員になったとしても「頼りにされる先輩」というポジションや自認も得られないという二重苦に陥っていた。そのような情況では、ひと昔前(高度成長期やバブル期)に30代半ばになっていた人びとが醸し出していたようなある種の「貫禄」をかれらが同じように持つのは土台無理な話だ。

 

人間はだれもが年を重ねれば自動的に大人になれるわけではない。この身も蓋もない事実を、しかし日本社会は長年において認識できなかった。かつての時代には「大人になるイベントがだれに対しても適切適時に用意されていた」からだ。あたかも年を取った人がみな自動的に大人になっていたように見えてしまっていた。そのような「大人になるイベント」が根こそぎ失われてしまえば、年齢的には大人なのに、内面的には幼いままの人が増えるのは必至だった。

 

逆に近頃の若者たちが妙に老成しているのは、かれらが「企業社会に入り、そこでコツコツと上を目指す」ではなく「自分たちの小さなグループをやりくりしていく」という小さな共同体主義的なライフスタイルに傾いているからだ。そこでなら自分たちが「コミュニティを切り盛りする」という立場で責任を負うし、後輩の世話をする役割も生じていく。かれらはかれらで、若い時間をエンジョイできず、強制的に大人になることを強いられているようにも見える。

 

就職氷河期世代は、いまの若年世代と比べて、そうしたコミュニティ的な「横のつながり」も希薄だ。なぜなら「正社員の座をつかみ取った勝ち組/ずっと非正規を渡り歩いた負け組」では、所得面はもちろん、社会観や政治観にも大きな分断構造があるからだ。世代内における「勝ち組」側は、対岸にいる「負け組」に対しては必ずしも同情的ではなく、かといって「負け組」も同じ境遇の者同士で連帯して共同体をつくることもなかった。

次ページサブカルチャーが、かれらを「永遠の若者」にする
フォールン・ブリッジ

フォールン・ブリッジ

御田寺 圭

徳間書店

情報技術の発達とともに、だれもが手軽に 「つながり」を得られる時代になった。 スマートフォンの画面を覗いてみれば、 一人ひとりがいまなにをしていて、 なにを考えているのかが、 いままで以上に見えるようになった…

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