「ほかに財産はない」厳格だった父の相続対策
相続のシーンでは、故人の遺産をめぐりドロ沼の争いになることが少なくありません。特に「生前の介護」が関わってくると、相続人の間で不平不満が噴出してしまうことも……。
たとえば下記のような例。自分事ではなくとも、親戚や友人で身に覚えのある人はいないでしょうか。
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〈佐藤一家の事例〉
都内の不動産管理会社で働く佐藤ツトムさん(現在60歳/仮名)。息子はすでに独り立ちし、妻との2人暮らしです。ツトムさんの母は8年前に亡くなっています。
ことの発端は、85歳の父の逝去でした。
九州に暮らす父は、数年前ベッドから落ちて骨折したことをキッカケに自宅を売却し、地元の老人ホームに入居。終の棲家を決めたのです。母の逝去時に何か思うところがあったのでしょうか、老人ホームの入居が決まった際、ツトムさんと妹のアキコさん(現在58歳/仮名)を呼び出し、通帳を見せました。
「ここに3,000万円ある。俺の身の回りのことに関しては、年金とこの貯金を使ってくれ。俺が死んだら余った分を2人で均等にわけろ。ほかに財産はない」。口数少ない父でしたが、子どもたちのことを想った最大限の相続対策でした。
以降、近隣に住んでいたアキコさんが、週1回老人ホームに顔を出し、様子を確認する日々が続いていました。都内住みのツトムさんはたまに近況報告を受ける程度で、あまり父の介護に関わってきませんでした。父の通帳はアキコさんが管理し、老人ホーム代やオムツ代などの出費を支払っていました。
時は流れ、老人ホームに入居して2年後。大病を患うこともなく、穏やかに父はその生を終えました。
こじんまりと葬儀が執り行われ、ひと段落ついた際、ツトムさんは「あの貯金、いくら残ったんだ?」と相続の話を持ち掛けました。父の介護を任せた手前、妹には少し多めに財産を受け取ってほしいと考えていました。