「郊外の安い土地」に付加価値を付ける方法

不動産は所有するものでなく、売却用の商品？

法人の代表でもあった私の先輩は土地の値上がりは確実という昭和五十六年当時の考えでしたから、あくまで参考程度に。先輩（代表）は郊外の極端に安い、坪1万円程度の土地を2千坪程度購入します。

先輩は財閥系の考え方を学んでいたので土地値が十分熟するまでの所有期間に利払いがマイナスになるのが嫌でそこで商売を考えました。投資目的で土地を購入する場合はそれが逆に負担になっては、何の意味もありません。売れるまでの期間をなんとかトントンまでは持っていきたいという目論見は当たり前のこと。

効率的な改修方法と土地を売るのではなく、建物と事業をそっくりそのまま売却するという作戦に変更しました。

アパート経営というのがいかに効率の悪いものであるかはやった人ならよくわかります。空室対策も必要だし、リフォーム費用も準備していかなければならないし、投資になってないと結論的に思う人は多いわけです。

先輩が思いついたものは時代に見合うジャストインタイムの施設づくりでした。満州引揚者（先輩は満州引揚者の息子でした）の無念さは、その財産のすべてを現地においてきたということに喪失感と執着性の喪失を植え付けました。

不動産は所有するものでなく売却用の商品という考えは一般の人の住宅は一生の中で最大の買い物という価値観を正反対から見るもの。不動産に対する執着性のなさを、先輩から植え付けられた私は五十歳になるまで借家に暮らしました。

新築の分譲マンションに入居して所有者が支払うべき80パーセントのローンを代わりに払ってやったことに気づいたときは、果たして賃貸住宅に住むことに意味があるのかと反省したものです。自己所有であれば少なくとも二十年支払えば、ほぼ自分のものとなっており、売却すれば売却益が出ます。購入金以上に売却する必要はありません。

周囲の反対運動を避けるために必要な「根回し」

不動産は所有期間が短ければ短いほど効率性を増します。そのためには付加価値を付ける必要があります。前述のとおり、先輩は只者ではない満州引揚者の息子です。彼が2千坪もの土地に価値を与えました。2千坪を購入しやすいように四分割しました。2千坪を購入するというのは個人にとって不要であり、持て余すはずです。

しかし、500坪なら個人でも事業を与えてやれば必要十分な面積です。坪1万円の土地を高く売るためには、これに儲かる建物を乗せる必要があります。アパート経営？ いえいえ、その程度なら誰でも不安材料が増えて、購入したいという気にならないでしょう。

先輩は天才と称してもいいような人物であったので、ここに許可条件の付いた物件を建てることにしたのです。周辺の反対運動を避けるための根回し。この辺りから私は周辺の工作を一人でやることになりました。周辺には数軒の農家があり、そのほとんどの農家については土地を購入した時からの知り合いでした。

今でこそ近隣対策という言葉がありますが、当時いろいろな営業方法を伝授してくれたのも先輩でありました。

私は、土産攻撃に一日の大半を費やすことになっていました。周辺の知り合い以外に範囲を広げて、およそ三十軒の農家をターゲットに車に菓子箱を積んでバンバン回ったものでした。三十軒の農家の中から相談役を選ぶ、その地域で最も意見の通る人物の特定と反対勢力の確認も重要です。

私の作戦は逐一、先輩（代表）に報告されて、成果を得ていました。農家の中であてにできる相談役から土地の購入も予定していることで、こちら側に味方してくれるという状況を作っていきました。

土地の購入は資金の続く限り、周辺から一挙にしてしまうのです。

最終的な完成後の〝絵（イメージ）〟が頭の中に出来上がっているのなら、購入できる限り購入しました。その結果、およそ周辺の土地を2万坪くらいまで購入予約を取れるところまで来ました。

ここまで購入予約が進むと反対する農家はほとんどなくなります。何をしてもほとんど自分の利益を優先で考えますから敵はいないわけです。地元を無視し、購入予約もせずに事業を優先すると大抵失敗してしまいます。

先輩（代表）の頭の中で組みあがっていたイメージは、今でいうところのラブホテルの営業でした。