経済の成長要因は「資本」「労働」「技術進歩」
株価は企業利益の増加、広く見ればその国の経済の成長につれて上昇するものとされていますが、その国の経済はどのように成長するのかについて、経済学では成長会計という手法で分析を行い、「資本」「労働」そして「技術進歩」という3つの要因に分けて考えます。
「資本」は企業が設備投資をすることです。「労働」は働く人の数や労働時間が増えたり、教育・訓練によって労働の質が向上したりすることです。「技術進歩」は新しい技術やイノベーションの導入を指します。
意外に思われるかもしれませんが、この3つの要因のうち、労働は日本の戦後の高度経済成長の主な要因ではありませんでした。
シニアの方々の子ども時代、つまり日本が高度経済成長を続けていた1960年代の実質経済成長率は約11%でした。その内訳は、資本が約7%、技術進歩が約4%、そして労働の貢献は技術進歩による効率化で生産性が向上し、労働時間が減少したため、0.4%でした。
高度経済成長時代の成長のエンジンとなったものは、技術革新投資を中心とする旺盛な民間設備投資であり、技術革新の主要な特徴は、新製品の開発と製造コストの低下の2点でした。
そして、高度成長時代の設備投資のもうひとつの特徴は、投資が投資を呼ぶというメカニズムが働いたという点であったとする報告もあります(経済企画庁「昭和52年年次経済報告安定成長への適応を進める日本経済」1977年)。
経済成長は「技術進歩」「資本の増加」で高まる
一方、バブル崩壊後の1996年から2015年まで20年間の平均成長率は0.8%であり、そのうち資本の貢献分が0.2%、労働は-0.3%であり、技術進歩が0.9%でした。
労働の貢献はマイナスでしたが、技術進歩により日本経済は年々0.8%ずつ成長しました。人口が減っているので、1人あたりでは1%以上の成長でした。つまり、人口減少それ自体は経済成長にとってマイナス要因ですが、先進国の経済成長にとっていちばん重要なのはイノベーション、つまり技術進歩であるとする報告があります(日興リサーチセンター「日本の設備投資もっと元気に」2018年)。
また今後、貯蓄率が上昇するとは考えがたいため、新たな、そしてより高い経済成長の水準に向かうためには、技術進歩や効率化による技術進歩の上昇が必要であるとする報告もあります(財務省「成長会計における日本経済成長の歩み」2005年)。
イノベーションは、かつてはスコップによる作業がブルドーザーによる作業に変わったようなものとたとえられましたが、現在ではブルドーザーから建設機械の代名詞である油圧ショベルに変わったようなものです。そして日本の油圧ショベルは世界シェアの約70%を占めるといわれます。
近年、わが国の低成長の理由は、資本蓄積が少ないことにあるといわれるようになりました。実際、2010年代の技術進歩の成長率は、過去20年あまりで最も高い伸びを示しています。これを製造業・非製造業別に見ると、製造業は、1990年代後半や2000年代の技術進歩の成長率のほうが高かったのですが、非製造業は、2010年代前半にそれまでのマイナスの伸び率からプラスに転じています。それでも経済成長率が伸びない背景には、労働や資本の低迷があります。
しかし労働は、2010年代に入って女性や高齢者などが労働市場に参入したため、プラスに転じました。一方、資本蓄積はこの20年あまり一貫してその伸び率が鈍化しており、2010年代に入ってからの経済成長の低迷の最大の要因は資本蓄積率の低下にあるとする研究報告があります(宮川努・石川貴幸「資本蓄積の低迷と無形資産の役割-産業別データを利用した実証分析-」2021年)。
このように、経済成長は技術進歩と資本の増加で高まることになりますので、労働の問題に目を奪われて外貨投資に偏ることは、シニアの方々は避けたいところです。
藤波 大三郎
中央大学商学部 兼任講師