絶望しかない…バブル期に買ったハワイの別荘、その後円安で売却したら→米国連邦所得税&ハワイ州税、まさかの「ダブル課税」に撃沈

絶望しかない…バブル期に買ったハワイの別荘、その後円安で売却したら→米国連邦所得税&ハワイ州税、まさかの「ダブル課税」に撃沈
(※写真はイメージです/PIXTA)

世界の相続税をみると、課税のない国があれば、相続税があっても課税方法はバラバラです。バブル期に日本人の多くがハワイの別荘を購入しましたが、40年が経過し、相続税の問題が顕在化しつつあります。本連載では、富裕層の国際相続の諸課題について解説します。

米国連邦所得税の課税

まず米国連邦所得税からみていきましょう。

 

米国と租税条約の適用のあったオランダ領アンチルの居住者が、当時、不動産化体株式(不動産関連法人の発行済株式)の譲渡が課税にならないことから、これを悪用した租税回避が横行しました。

 

1980年にこれを防止するための税制(Foreign Investment in Real Property Tax Act:略称FIRPTA[ファプタ])が創設され、4年後の1984年制定の赤字削減法により源泉徴収が課税となりました。FIRPTAはハワイ州の物件を売却する時点でアメリカ国内に居住していない場合に適用されます。

 

源泉徴収の税率は、譲渡金額が100万ドル以下で、買い手の居住用の場合が10%、それ以外は15%です。

 

FIRPTAは内国歳入法典第897条に規定され、法人の資産の50%以上が不動産(不動産の評価は時価)である場合、その処分から生じる譲渡収益が課税となります。

 

日本の場合は、譲渡代金を支払う者が源泉徴収しますが、米国の場合は不動産の権利関係を仲介するエスクロー会社がこれを行います。エスクローとは、物品などの売買に際して信頼のおける第三者が契約当事者の間に入り、代金決済など取引の安全性を確保するサービスです。

 

米国における不動産譲渡契約は以下のように行われます。

 

①    売主および買主あるいはそのエージェントが介在して売買契約書を作成。

②    売買契約書を第三者機関であるエスクロー会社に送付。

③    エスクロー会社は、調査会社等に当該不動産に関する権利関係等の調査を依頼。

④ エスクロー会社は、新たな権利書を作成し、売主と買主が署名。

⑤ 買主は譲渡代金をエスクロー会社に預けたあと、署名済み権利書を登記所に提出。

⑥ エスクロー会社は、源泉徴収税額を差し引き納税。

⑦ 買主は権利書、鍵等の引き渡しを受け、売主は、譲渡対価から源泉徴収税額、エスクロー会社の手数料等(譲渡対価の6%)を差し引いた金額を受け取る。

 

米国の連邦所得税の課税では、前出の日本居住者Aさんは米国非居住者になります。Aさんは譲渡損失であることから、源泉徴収された税額は翌年の確定申告(納付期限は4月15日)還付について、確定申告前に早期還付を求める手続きもあります。

ハワイ州税の課税

上記の連邦税におけるFIRPTAと同様に、非居住者が米国不動産を譲渡して、いわゆる「売り逃げ」を防止する観点から、ハワイ非居住者が不動産を譲渡するとき、ハワイ州不動産税法(Hawaii Real Property Tax Act:略称HARPTA[ハプタ])が売買金額の7.25%の税率で課されます。要するに、HARPTAはハワイ州の物件を売却する時点でハワイ州内に居住していない場合に適用されます。なお、この税額は確定申告(翌年の4月20日が納期限)で還付が可能です。

 

このほかに、ハワイ州の税法では不動産を売却にて所有権移転された場合には売買代金に対して不動産譲渡税 (Conveyance Tax) が課されますが、この税は所得に課される税ではなく、性質としては不動産取引に係る間接税です。

日本の所得税の課税

日本居住者Aさんのケースではドル建ての譲渡損益は損失ですが、円建てで計算すると円安の影響で譲渡益が生じるという内容です。

 

この場合、当該資産の取得価額と譲渡価額は円で表示されることから、円建ての利益を譲渡益とするのが妥当です。

 

問題は、米国連邦所得税とハワイ州税により源泉徴収が行われることです。また日本の所得税の確定申告の期限が3月15日であるのに対して、米国連邦所得税およびハワイ州所得税の申告期限はいずれも4月です。

 

たとえば、令和元年に譲渡が行われ、連邦および州の双方で源泉徴収された場合、令和元年の日本の確定申告において外国税額控除の請求をすることになります。そして、令和元年の4月の米国連邦およびハワイ州税の還付申告により税の還付があった場合、日本において令和2年の確定申告において修正申告が行われ、外国税額控除対象額から控除されることになるので注意が必要です。

 

矢内一好

国際課税研究所首席研究員

 

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