職場で高い知見や優れた能力を発揮し続けた人が「顧問」に就任するというケースは多々あります。しかし、顧問として現場で大活躍したという話はなかなか聞く機会がありません。現場で求められ活躍できる顧問になるには、どのような働きをすべきなのでしょうか。今回は、東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)の代表取締役社長・福留拓人氏が、Aさんの事例とともに、顧問の「理想の姿」について解説します。
3年間で数百億円の売上増・想定外の倒産危機も回避…「超レジェンド級顧問」の事例から学ぶ、現場が認める顧問の働き方【プロが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

顧問となったAさんが「自動車部品」事業進出を提言した理由

この機械部品メーカーは非上場ですが売上は数百億円に達し、業界でそれなりの地位を占めていました。2005年頃の話ですが、白物家電で使われる部品が売上の7割ほどを占めていました。

 

Aさんは、経営トップに「自動車メーカーの部品にも事業を展開して製造・販売してみてはどうか」と提案します。経営陣は、それまで手をつけたことがない分野だったため大変驚きました。しかも、日本の自動車産業の部品に対する要求レベルというのは世界最高水準です。あらゆる製造分野のなかで最高の品質が求められ、難易度が高い業界とされています。大手自動車メーカーの納入業者になる難易度は最高レベルなのに、そこへ家電しか扱ったことのない会社が進出できるはずもありません。

 

大変興味深い話ではあったものの、経営トップは腰が引けてしまいました。するとAさんは「発想が逆だ」と言ったのです。「自動車部品で自動車メーカーに認められる品質水準をクリアできれば、部品を必要とする世界中のメーカーに持っていっても通用する。だから挑戦する価値がある!」と、経営トップに対してコーチングしました。さらに、自分ができる限りの陣頭指揮を執ると宣言したのです。

販路を広げていたおかげで窮地を脱することができた

そして、顧問であるAさんは設計、品質管理、生産管理、工場の生産体制の現場に入り、自ら指揮を執りました。自動車産業での経験が長かったので、それまでの得た知見を基に3ヵ年計画で会社全体のレベルを引き上げて行きました。

 

そして3年後。可能な水準に達したとAさんが評価をした段階で、各自動車メーカーの購買部門を通さずに自分のネットワークを活かして役員にセールスを掛け、一気に販売窓口を開設しました。これにより、数百億円の売上が入るようになりました。猛烈な成長率です。

 

しかし、順調だった2011年、東日本大震災が発生しました。この会社が従来部品を納入していた会社はすべて東北に拠点があったため、当然大きな被害を受けました。特に、家電関係の製造は完全に停止してしまったのです。ところが、この会社は自動車部品にも販路を広げていたので、その危機を脱することができました。売上の減少も最低限に抑えることができたのです。

 

もしAさんが顧問に就任していなければどうなったことか。考えると背筋が凍り付きます。