前回は、資産として「残すべき不動産」と「売るべき不動産」を見分ける方法について説明しました。今回は、資産を優良化する方法について、筆者の経験談を交えながら見ていきましょう。

「広大地」に建物が複数あると多額の相続税がかかる

資産を優良化する例として、今ちょうど、次のような案件を扱っています。下記の図表を見てください。

 

[図表]資産の優良化

 

ある大地主が所有しているのは幹線道路に面した1500㎡の土地です。そこにはアパートや借家人の戸建てが複数点在しています。建物が一軒もなければ、この土地は広大地として評価することができるのですが、現状のようにいろいろな建物が建っていると、その使用区分ごとに評価をしなければなりません。アパートAの土地がいくら、戸建てBのところがいくら・・・というように個別に評価していくと、合計額はかなり高額になってしまいます。

 

それぞれの建物はかなり昔に建てたものらしく、外から見ても古いことが一目瞭然です。しかもアパートはどれも半分ずつくらいしか部屋が埋まっていません。アパートが建つ土地は貸家建付地で評価減できますが、半分しか稼働していなければ全体の2分の1の面積しか適用できません。

 

このまま相続を迎えたのでは多額の相続税を支払わなければならないうえに、さして収益も上がらないお荷物の物件を相続させることになってしまいます。

 

また、この地主は1500㎡の土地の隣に、自宅を持っています。その自宅用地も500㎡を超える土地です。仮に相続の際に相続税の納税資金が準備できなければ、どこか土地を売却しなければなりませんが、普通に考えて自宅を売るわけにはいきません。順当に考えて1500㎡の土地を売る選択になるでしょう。

 

しかし、1500㎡の土地は幹線道路に面した非常に優良な物件です。ビジネス的には、何としても残したいものです。

立ち退きをかけることで8500万円もの節税が可能に

そこで、筆者は本人に、道路をへだてた反対側に新居を作ること提案しました。次に戸建てBとCに住む借家人とアパートAの入居者に交渉し、立ち退きをかけることにしました。借家人は別の場所に引っ越し、アパートAの入居者はアパートDやEにそれぞれ移ることで決着がつく見通しです。

 

無事に立ち退きが完了すれば、1500㎡のうち半分の750㎡と旧自宅の500㎡の合計1250㎡が広大地として約8500万円の評価減ができます。

 

計算式は次のようになります。

 

広大地の補正率=0.6-0.05×広大地の地積/1000㎡

=0.6-0.05×1250㎡/1000㎡

=0.5375

 

この土地の路線価を15万円/㎡と仮定。

 

広大地の評価額=1250㎡×15万円×0.5375

=1億8550万円×0.53755

=1億78万円

 

評価減の金額=1億8550万円-1億78万円

=約8500万円

 

立ち退きの際に補償金として、借家人とアパート入居者の全員に引っ越し費用と3カ月分くらいの家賃を支払うことにはなりますが、それでも300万円程度です。300万円で8500万円の評価減できるとなれば、十分な節税ではないでしょうか。

 

さらに自宅の土地も売却し、幹線道路を挟んだ向かい側の土地を買って、そこに自宅を新築することを提案しています。幹線道路から離れた土地から幹線道路に接する土地に買い替えることで、資産価値を高めるのが狙いです。

 

不動産業者は「空いている土地に新しくアパートを建てませんか」とは提案してきますが、「土地の整理をすると広大地になるし、売却するにしても買い手がつきやすくなりますよ」とか「今の自宅を売って条件のいい土地に買い替えたほうが資産価値は上がりますよ」とはめったに提案してくれませんし、相続に不慣れな税理士も然りです。

本連載は、2013年11月1日刊行の書籍『相続税対策は顧問税理士に頼むと必ず失敗する』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続税対策は 顧問税理士に頼むと必ず失敗する

相続税対策は 顧問税理士に頼むと必ず失敗する

田中 誠

幻冬舎メディアコンサルティング

税のプロとして認識されている税理士にも得意不得意分野があります。特に不動産を含む資産税に関する対策は、その実務経験がものをいいます。つまり、相続税対策はどの税理士に頼むかで、結果が大きく変わるのです。 本書は、…

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