今、安易に家を建てると「資産価値激減」の可能性…これから日本の住宅が「快適になる」ワケ
高気密・高断熱住宅の最大のメリット=快適な暮らし
高気密・高断熱住宅は、維持コストを勘案すると経済的にも得であり、健康にもとてもよく、メリットばかりです。そのなかでも、最大のメリットは、快適な暮らしが実現できることにあると私は考えています。その快適さは、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)が大幅に向上するといっても、決して言い過ぎではないと思います。
ではなぜ、高気密・高断熱住宅の暮らしは、QOLが向上するほど快適なのでしょうか? 快適さを文章でお伝えするのは、なかなか難しいというのが正直なところです。ただ高気密・高断熱住宅の暮らしは、言ってみれば温水洗浄便座のようなものだと言われています。
たしかに、温水洗浄便座の使用経験がない外国人に、そのよさを口で説明してもなかなか伝わらないと思います。ただ温水洗浄便座がある暮らしを一度経験してしまうと、それがない暮らしというのは考えられなくなるかと思います。高気密・高断熱住宅もまさにそれと同じなのです。
つまり、高気密・高断熱住宅の快適な暮らしを経験すると、性能が低い住宅での暮らしは考えられなくなるほど快適なものなのです。
高気密・高断熱住宅は、足元が寒くないので快適!
高気密・高断熱住宅の暮らしが快適なのには、いくつかの要因があります。
その一つに、コールドドラフトという現象が起きなくなることが挙げられます。コールドドラフトというのは、断熱性能が低い家で、冬に冷気が足元に下りてくることをいいます。
図表1のように暖房によって暖まった空気は、軽くなるため上昇します。しかし、断熱性能が低い家の場合、窓や壁が外気で冷やされています。せっかく暖まった室内の暖気は、冷えた窓等に触れることで冷たくなってしまい、足元に下りてきます。そのため、我が国の普通の家は足元が寒くなってしまうのです。我が国で床暖房の人気が高いのもこのためです。
高気密・高断熱住宅にすると、このコールドドラフトが起こらないため、足元が寒くなることがありません。そのため、床暖房がなくても快適です。
図表2のサーモカメラの写真をご覧いただけば、断熱性能の違いによる足元の温度の違いは一目瞭然です。床暖房がなくても快適なことがおわかりいただけると思います。
一般的に床暖房は、設備の設置コストが高く、光熱費も高くなってしまいます。高気密・高断熱住宅にすると、それらのコストが不要になります。
また、床暖房では、一般的には無垢材のフローリングが使えません。一方、高気密・高断熱住宅では床暖房は不要なので、無垢材を標準仕様にしている工務店が多くなっています。
さらに気密性能を上げることで、すきま風もほとんどなくなります。隙間だらけの家は、暖房時の暖かい空気が屋根や天井から逃げていき、その分足元に冷たい空気が入ってくるので、やはり足元が寒い原因になってしまうのです。
あまり知られていない「輻射熱」が快適さに与える影響
また、あまり知られていないのですが、快適さの要因の一つに、輻射熱との関係が挙げられます。
熱を持っているあらゆる物体は、赤外線や遠赤外線を発していて、接触していない2つの物体があると、高温の物体から低温の物体へと熱が移動します。これを輻射熱といいます。
人体は、住宅においては壁や床などと温度差があると、熱のやり取りをしているのです。そのため、人が感じる温度は空気の温度(室温)だけではなく、壁や床などの平均温度の影響を強く受けます。
輻射熱を勘案した人の体が感じる温度(体感温度)は、次の計算式で表されます。
室内での体感温度=(平均輻射温度+室内温度)/2
たとえば、夏に暑い部屋に入ってエアコンを掛けると、はじめは冷たい風がエアコンから吹いてきて涼しくなりますが、しばらくするとまだ暑いのにエアコンの風が弱まり、不快に感じることはないでしょうか?
エアコンは空気の温度をコントロールする機械のため、設定温度まで室温が下がったら、その後は出力が下がり、室内の温度を保つための定常運転に入ります。
ただ、定常運転になった段階では、外気や日射の影響を受けやすい低断熱の家の場合、床・壁・天井の表面温度は高いままなので、人体は壁や天井からの輻射熱を受けます。そのため、体感温度では暑く感じてしまうのです。やがて壁の温度が下がってくれば、人は涼しく感じるようになる、というわけです。
冬はこの逆のことが起きています。たとえば、冬の月曜日の朝のオフィスは、他の曜日よりも寒く感じることはないでしょうか? これは土日に暖房が使われておらず、コンクリートがキンキンに冷え切っています。そのため、暖房で室内の空気が暖まっていても、コンクリートの躯体からの冷輻射が他の曜日よりも強く、人体の熱がコンクリートの躯体に奪われているために、他の曜日と同じ室温でも寒く感じるのです。
高気密・高断熱住宅では、夏も冬も壁面等からの輻射熱の影響が大幅に減るために、夏も冬も緩やかなエアコンの設定温度でも快適なのです。
たとえば、図表4のように、断熱性能の低い家(左側)と高断熱の家(右側)があったとします。冬に左側の家では、暖房で室温が30℃まで暖かくなっていたとしても、壁の内側の表面温度が外気の影響で10℃まで冷えているとすると、壁面からの冷輻射により、体感温度はで20℃になります。
一方、右側の高断熱住宅の場合、22℃まで暖房され、壁面温度が20℃だとすると、体感温度は21℃になります。つまり、温度計で計ると左側の家のほうが8℃も室温が高いのに、体感は、右側の高断熱住宅のほうが暖かく感じられるのです。