(※写真はイメージです/PIXTA)

2022年度の「国民負担率」が公表された際、「まるで五公五民じゃないか」と話題になりました。五公五民とは江戸時代の年貢率の1つで、収穫の半分を年貢として納め、残り半分を農民のものとすることです。令和のいま、日本人の税負担は得ている社会保障に見合っているのでしょうか。本記事では、帝国データバンク情報統括部の『帝国データバンクの経済に強くなる「数字」の読み方』(三笠書房)より一部を抜粋、再編集して、経済の動きを示すさまざまなデータ、指標、数字を例にあげ、その読み方、傾向と対策について考えていきます。

日本人は「取られすぎ」なのか?

さて、年々上昇傾向にある日本の国民負担率ですが、諸外国と比べて高いのでしょうか?  それとも低いのでしょうか?

 

財務省がまとめたOECD(経済協力開発機構)の統計における日本の国民負担率は、高福祉国家が多いヨーロッパの国々よりも低く、北米・南米よりも高い傾向にあり、OECD加盟36カ国中22番目の高さとなっています。

 

加盟国のなかでは高齢者の割合が最も高い日本でありますが、全体的にみると国民負担率は高水準とは言えず、G7のなかではアメリカ、イギリス、カナダに次ぐ4番目に低い結果となっています。しかし、低調な出生率が継続し、高齢化が進む日本の現状から考えると、国民負担率はますます上昇する可能性が高いと言えます。

 

ただし、国民負担率の上昇は必ずしも経済に悪影響を及ぼすとは限りません。なぜなら、国民が支払った税金や社会保険料などは社会保障や教育の整備、社会インフラなど公的サービスに還元されるからです。

 

そのため、重要なのは国民負担率の高さではなく、国民負担に見合った還元となる「受益(給付)」があるかどうかではないでしょうか。社会保障における受益が現代と比べて低い江戸時代の制度である「五公五民」と令和時代の国民負担率を比較するのは不適当であるといった声が聞かれますが、これはまさにこの視点に基づいた見解です。

 

では、日本国民は社会保障における受益に見合った負担をしているのでしょうか。

 

財務省が公表した社会保障に関する資料では、OECD各国の社会保障における「負担」と「受益」の関係がまとめられています。「負担」の指標として「国民負担率(対GDP比)」が使われ、「受益」の指標として「一般政府の社会保障支出(対GDP比)」が用いられました。日本のデータは2015年までの実績値ですが、2つの指標は過去60年間で年々増加しています。

 

しかし、近年では国民負担率はさほど上昇していない一方で、「受益」である社会保障支出は急速に上昇していました。また、2015年時点の国民負担率はOECD諸国の下位3分の1に属している一方で、社会保障支出の位置は中位3分の1に位置しています。

 

そのため財務省は、各国と比べて日本は「低負担、中福祉」だと指摘しています。つまり、日本の国民負担は国民が社会保障における受益に見合った、ないしはそれを下回る負担にとどまっていると言えます。

 

そうであるにもかかわらず、国民負担率の上昇で不満や不安の声があがっているのは、税金や社会保険料による受益感が少ないからだと考えられます。少子高齢化に歯止めがかからず国民負担率の上昇傾向が続くなか、今後は「五公五民よりひどい」といった声があがってくる可能性は十分にあります。

 

そのため、まず政府に求められるのは税金や社会保険料の使い道をもっと見える化して、国民がその恩恵をより感じられるようにすることです。ただし、そもそも支出が効果的でなければ、いくら見える化しても意味はありません。政府はEBPM(Evidence Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)を実践し、より効果的な政府支出を徹底的に強化することも欠かせないでしょう。

 

 

帝国データバンク情報統括部

 

 

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