入居初日で幕を閉じた「終の棲家」での生活
羽田さんは入居初日から旅行に来たような気分で、心から新居を楽しんでいました。
羽田さんは、夫婦で暮らしていた白金のタワマンを売却、子供達に夫の預金口座から施設の費用の支払いのために自分の口座へお金を移すよう、指示を出していました。しかし、手続きを確認しにいった息子から驚愕の事実を告げられます。
「お父さんの預金は移せないし、タワマンもこのままでは売却できない。すごく言いづらいんだけど、カネはあっても、お母さんには使えないそうだよ」。
お金はあるはずなのに、使えない…?
羽田さんははじめ、息子の話がよく理解できませんでした。
「私たち2人(羽田さん夫婦)で管理していたはずの資産が2億円以上あるはずなのよ! それが使えないって、どういうこと?」羽田さんは動揺します。
その理由は、正さんがすでに認知症になっていることにありました。認知症などが理由で正常な判断ができない場合には、手続きを行えず、その資産は家族であっても勝手に処分できません。こういった場合、不動産の処分などは、任意後見制度や成年後見などを利用し、後見人同席のうえで手続きを行うことになります。
もし成年後見制度を利用する場合、資産の使い道は「本人の利益に属することのため」などに制限されているため、正さん本人ではない、妻である羽田さんのためにお金を使うことは原則としてできないのです。
羽田さんには公的年金による収入が月に18万円程度と、株式の配当が月換算で5万円程度ありましたが、それだけでは毎月50万円もの老人ホーム費用を払うことができません。
事情を施設に話すと、入居金の大部分は返還してもらえるとのことで、これは不幸中の幸いでした。しかし羽田さんは「夫は私を愛しているのに、私が幸せな晩年を送るためならお金を惜しまないはずなのに。2億円もあるのに、使えないなんてあんまりだわ」とうなだれます。こうして、泣く泣く施設を離れることになってしまったのでした。
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