企業の「費用」を「固定費・変動費」で考えてみる
企業は、さまざまな費用を使って物(財およびサービス、以下同様)を作って売り、利益を稼ごうとしています。工場を建てる費用、労働者を雇うための賃金、材料を仕入れる費用…等々があり、人件費、物件費等に分類されることも多いのですが、本稿では費用を「固定費」と「変動費」という分類で考えてみましょう。
「固定費」というのは、客が1人も来なくても、製品が1つも売れなくてもかかる費用です。レストランの例でいうなら、客が来ないと収入がゼロですから「固定費は客が1人も来なかった場合の赤字額」と言い換えることもできる費用です。それ以外は「変動費」です。店を借りる費用、社員を雇う費用等は固定費で、材料費は変動費だといえるでしょう。
固定費が10万円、定食が1500円、1食あたりの材料費が500円だとすると、客がゼロなら10万円の赤字で、客が1人来るごとに1000円ずつ赤字が減り、客が100人来ると赤字が消え、それ以上客が来ると黒字になります。そのような人数(ここでは100人)のことを「損益分岐点」と呼びます。
企業の売上、2倍になることは滅多にないが…
企業の決算発表を聞いていると、売上が2倍になることは滅多にありませんが、利益が2倍になることは時々あります。上記の数値例でいえば、来客数が2倍になるのは大変ですが、客数が101人から102人に増えただけで利益が1,000円から2,000円に倍増するからです。
もちろん、反対に客数が102人から101人に減れば利益が半減してしまいますし、99人に減れば赤字に転落してしまいますから、店にとって嬉しいことばかりではありませんが。
ちなみに、株式投資をしている人は、企業の決算を予想して株の売り買いをする場合もあるようですが、わずかな売上高の増減で大幅な増益や減益になるわけですから、予想は容易なことではなさそうです。
企業が赤字でも操業を続けるワケ
企業のなかには、赤字なのに操業を続けているところも少なくありません。「赤字なら操業をやめればいいのに…」と考える人もいるでしょうが、赤字でも操業を続けたほうが赤字が減る場合も多いのです。
上記のレストランの例で、客が毎日50人しか来なければ、毎日5万円の赤字ですが、操業をやめてしまえば客数がゼロになり、毎日10万円の赤字になってしまうので、操業を続けているわけです。
客がゼロならば固定費が全額赤字ですから、定食の値段が材料費より少しでも高いなら、操業した方が得だ、ということになるわけです。ライバル店との値引き競争が激しくて、材料費より定食の料金が安くなってしまえば操業をやめたほうが得ですが、そんな店は多くないでしょう。
以上が基本的な考え方ですが、操業を停止するか否かを検討する際には、もうひとつ考えるべきことがあります。それは「期間」です。
固定費と変動費の分類は「期間」のとらえ方で変化する
今日1日のことを考えれば、客が1人も来なければ浮く費用は材料費だけなので、上記では材料費を変動費、それ以外を固定費としましたが、考える期間を延ばすと、固定費が変動費に変化する場合があります。
店の操業を停止する場合には、正社員はクビにできなくてもアルバイトなら調整可能ですし、空調等の費用も不要ですし、店を借りている場合にはテナント契約を止めることができるかもしれません。
そうだとすれば「固定費は正社員の給料だけ」ということになるかもしれません。それ以外の費用はすべて変動費だとすれば、「ライバルとの値引き競争によって定食の料金が変動費より安くなった」というケースもあるでしょうし、そうなれば操業を停止することになるでしょう。
実際には、店を借りる契約は契約期間が定められ、簡単には止められないでしょうから、契約期間中は営業を続け、契約期間が終了したら営業を終了する、といったところが現実的なのかもしれませんね。
食べ放題の店が儲かるのも、固定費と変動費で説明可能
世の中には、食べ放題の店が数多くあります。来てほしい少食の客は来ないで大食いの客ばかり来るでしょうから、さぞかし経営が苦しいと思う人もいるでしょうが、実際には食べ放題の店が多い事を考えると、儲かっているのでしょう。
それは、他人の3倍食べる客が来ても、材料費が3倍かかるだけで、店を借りる費用等々は増えないからです。定食3人前を食べる客が定食2人前の料金を払ってくれるとすれば、客は得した気分になりますが、店も材料費が3倍になるだけなので、結構儲かっているのかもしれません。
食べ放題の店が儲かる理由はほかにもありますが、それは別の機会に詳述しましょう。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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