(※写真はイメージです/PIXTA)

企業が債務超過に陥れば、倒産するのが一般的です。しかし、なかには黒字なのに倒産してしまう企業、債務超過なのに倒産しない企業も存在します。なぜでしょうか? 経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

企業が倒産するかどうかは「資金繰り」で決まる

企業は、赤字が続いて債務超過になると倒産するのが普通です。普通の企業が債務超過になると、債権者たちは、

 

①借り手は資産をすべて売っても借金をすべて返す事ができないようだ。

  ↓

②つまり、他の債権者が債権を回収してしまうと、借り手の金庫が空になり、わが社の債権が回収できなくなってしまう…。

  ↓

③そうなる前に、ほかの債権者より先に回収しなければ!

 

と、考えて、われ先に返済を要求しにやってきます。その結果、資金繰りが破綻するわけです。

 

しかし、黒字でも倒産する企業がある一方で、債務超過でも倒産しない企業もあります。倒産するか否かは、資金繰りが破綻するか否かで決まるからです。

 

ちなみに、日本政府は債務超過ですが、破産していません。それは、投資家たちが日本国債を購入しているので、日本政府は資金繰りに困っていないからです。日本政府は企業ではありませんが、資金繰りに困らなければ破産しない、という点は同じです。

 

日本政府が普通の企業と異なるのは、日本国債がもっとも安全な資産だから投資家がよろこんで(消去法的に?)買う、という点です。メガバンクに預金するより安全ですし、現金で持つと強盗のリスクがありますし、米国債を買うと為替リスク(ドル安になって損をするリスク)がありますから、それと比べれば日本政府が破産するリスクの方がマシだ、という事なのでしょう。

黒字でも倒産する企業があるが…

黒字の企業であれば、通常は銀行も安心して融資をするでしょうし、債権者が急いで債権を回収することもないでしょうから、倒産することは考えにくいでしょう。しかし、例外はあります。

 

売上を伸ばすために「支払いは1年後で結構ですから、高く買って下さい」といって売上を伸ばし、「仕入代金は即金で払いますから安くして下さい」といって安く仕入れているとすれば、売上が増えるほど手元資金が出ていくことになるので、資金不足に陥りかねません。

 

資金不足で給料が払えなかったり、借金が期限に返済できなかったりすれば、黒字でも倒産しかねないわけです。

 

とくに「支払いが1年先でいいなら高くても買う」という買い手は、資金繰りに困っている場合も多いでしょうから、1年後の入金予定が2年後に伸びてしまうリスクもありそうですし、買い手が倒産して入金が見込めなくなってしまうリスクさえありそうです。

債務超過でも倒産しない企業もある

銀行から100万円借りて設備機械を買った借り手が赤字になり、銀行へ「債務超過なので借金をすべて返すことができない」と連絡したとします。

 

銀行は「それならすぐに会社を解散しろ! 資産をすべて売って返せるだけ返せ!」と迫ることも可能ですが、「しばらく待ちますから、返せる時に返せるだけ返して下さい」ということも可能です。

 

強引に取り立てて借り手が倒産すると、「あの銀行は冷たい。あの銀行と付き合うのはやめよう」と多くの企業が考えて顧客が減ってしまう、ということもありますが、じつは、返済を待ったほうが銀行の利益になる場合もあるのです。

 

ひとつは、会社が黒字を回復して全額返済できるようになる可能性に賭ける場合です。買ったばかりの設備機械でも、スクラップ業者に二束三文で買い叩かれてしまう可能性が高いので、それよりは回復の可能性に賭けよう、という選択は十分あり得るでしょう。

 

しかし、回復の見込みが皆無だとしても、待ったほうがいい場合も少なくないのです。

 

100万円の設備機械を10年で減価償却するとすれば、毎年10万円になります。10万円の材料費と10万円の減価償却費に対して売上高が19万円しかない場合、企業は赤字になりますから、純資産が小さい場合には債務超過に陥るでしょうし、借金をすべて返済することは不可能でしょう。

 

しかし、19万円の売り上げに対して仕入れは10万円ですから、毎年9万円のキャッシュが手に入ります。これを使って返済させれば10年間で90万円が戻ってきます。設備機械をスクラップ業者に買い叩かれるより、10年待ったほうが銀行の利益になるのです。

 

もっとも、銀行は債務超過の会社に金を貸していると手間がかかりますので、手間を考えて「損を承知」で急ぎ回収する場合も少なくありません。100万円貸してある場合は急いで回収し、100億円貸してある場合は手間をかけても多く回収する、といったことが起き得るわけです。別に「大企業だから優遇している」というわけではなく、手間をかけても見込める回収額が多いから待つのです。

企業の利益とキャッシュフローを乖離させる「減価償却」とは

企業が鉛筆を買った場合、会計年度内に使い終わらなくても、購入代金は購入した会計年度の費用として計上します。鉛筆が半分残っているから購入代金の半額だけ「使いかけの鉛筆」という資産を貸借対照表に載せておく、というのは面倒ですから、鉛筆は使ってしまったことにするわけです。

 

しかし、滅多に買わない高価な設備機械の場合は、10年間使う予定の機械の購入費用を今年度に計上すると、今年度が赤字になり、来年度からは大幅な黒字になる、といった事が起きかねません。

 

そこで、「10年かけて機械が10分の1ずつ擦り減るので、機械の価値が10分の1ずつ減っていく」という会計処理をするのです。これを「減価償却」と呼びます。上記の例でいえば、毎年10万円ずつ機械の価値が減っていくと考えるので、損益計算書では費用が10万円計上されますし、貸借対照表では機械の価値が毎年10万円ずつ減っていくわけです。

 

企業が「赤字」ではなく「利益がゼロ」だとしましょう。10万円の材料を使って製品を作り、20万円で売っているという場合です。現金は購入時に一気に出ていくのに、費用は毎年10万円ずつ計上されるわけですから、1年目は現金が減っても損失はなく、2年目以降は利益が出ないのに現金が増えていく、ということが起きるのです。減価償却があると、「利益」と「現金」が異なった動きをするので要注意です。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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